桜が咲く時まで、生きていたい
「姫奈さん、お久しぶりですね。定期検診まではまだありますが、何かお変わりありましたか?」

「実は…」

そう言って昨日のことや最近のこと、薬はちゃんと飲んでいることを伝えた。

全て話終わると先生は少し考え込んで、待合室にいるように言った。

「お母さん、もしかして私って…」

「大丈夫よ」

嫌な予感がした。あの夢が現実になるような…。

「染島さんこちらへお越しください」

そう言って案内されたのは、先ほどの診察室ではなく、小さい個室だった。

「どうぞ」

そう言われて椅子に座ると、先生が話し始めた。

「姫奈さん…今から少し酷な話をします」

そう前置きを置くと、意を決したように口を開く。

「姫奈さんの病気は通常、私が処方した薬を飲めば症状は抑えられ、快方に向かっていくものです。最初、お話したことを覚えていますか?」

「…力が入りづらくなったり、手足が痺れたり…、あとは…」

「そう。重症になれば呼吸筋の麻痺、自律神経の乱れによる生命の危険もあるとお話ししたと思います。ここ数日の姫奈さんの症状、薬の効きの悪さ、進行速度から総合的に判断して…」

先生はまっすぐにこちらを見る。

「重症になる可能性が極めて高く、このままの進行速度でいけば、持って半年です。この病気の重症者は極めて少なく、記録も少ないため、あくまで推測ですが、記録によれば…そのぐらいです」

何を、言われているのかわからない。

モッテハントシ…?

理解ができない。

「持って半年…。今は6月…12月まで…?」

みんなと…卒業ができない?

「あくまで推測です。決まっているわけではありません。ですが…一つお伝えしておかなければならないことがあります」

まだ、何かあるの…?

「現在、この病気の重症者に対する特効薬的なものが…まだ開発されておりません。そもそもの重症者の数の少なさゆえに、実験もできず…。申し訳ありません」

そう言って先生は深々と頭を下げる。

鈍器で殴られたような頭を必死に回転させる。

「…先生のせいじゃありません。それで…これから現れるかもしれない症状は…」

「病気の進行速度にもよりますが…おそらく8月の終わりには、手足の痺れがひどくなり、立っていることが難しくなると思います」

「先生…私…好きな人がいて…」

ぼろぼろと泣き出した姫奈の話を先生は優しく聞いてくれる。

「この間の文化祭では…私のクラスが優勝して…!みんなでっ、体育祭も優勝しようねって…言ったばっかりなのに…!」

「うん…」

「みんなと一緒に卒業もしたいっ…!」

「先生も…諦めないから…。一緒に頑張って卒業しよう…」

もう、涙が止まらない。気づけばその場にいた全員で泣いていた。
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