すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
「さあ、ここが弟の部屋だよ。そのまま残してあるんだ」

 侯爵が扉の前で立ち止まり、私に振り返ってそう言った。
 静かに扉が開いた瞬間、乾いた絵具と油の匂いが鼻をかすめた。

 そこはまるで時間が止まったような空間だった。
 机の上には筆や絵具がそのまま残され、真っ白なキャンバスもある。
 今すぐにでも彼が戻ってきて続きを描き始めそうな、そんな気配すらあった。


「弟が亡くなって5年が経つのに、母がどうしてもこの部屋を片付けたくないと言うのでね」

 侯爵の説明を聞きながら、私はふと足を止めた。いや、足が勝手に止まってしまったのだ。
 壁にかけられた一枚の肖像画が、私をじっと見つめているような気がした。

 白銀の髪に、澄んだブルーの瞳。
 色白で少し痩せた顔立ちの男性。
 どこか憂いを帯びた表情をしている。


「このお方が……?」

 私が訊ねると、カレンが答えた。

「ええ。スヴェンよ。本当に、そっくりでしょう?」

 私はただ、小さく頷くことしかできなかった。

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