すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
「レイラ、今日も訓練しているのか?」

 エリオスの低く穏やかな声が響く。
 私は慌てて立ち上がり、部屋へ入ってきた彼の手を取ってソファへと導いた。

「まだ握ることしかできないのだけど」
「すごいじゃないか。筆が握れるようになったんだな」

 意外なほど明るい声音に、私は思わず瞬きをした。
 でも、確かにそうだ。
 あの日、右手が動かなくなったときは、もう二度と絵を描けないと思っていた。
 今は筆を握れるのだ。それだけでも、奇跡みたいなことだ。

「あなたがそう言ってくれて、少し心が軽くなったわ。痛みがなくなってから、怪我のことを忘れてしまっていたの。どうして上手く動かせないのかと苛立ってばかりで……でも、これほどの傷を負ったんだもの。焦るほうがおかしいのよね」

 自分の声が、少し震えていた。
 焦りと喪失の狭間で、私はずっともがいていたのだと思う。

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