すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
「それに、レイラはもう、君が気軽に口を利ける立場ではない」
「は……?」
「そのうちわかる。今は彼女と話があるから、失礼するよ」

 そう言って侯爵は私の肩に手を添え、優しく導くように歩き出した。
 私はアベリオの様子が気になったけれど、もう振り向かなかった。


「助けていただき、ありがとうございます。すみません、お見苦しいところをお見せしてしまって」
「いや、私は構わない。しかし、彼は君の知り合いか? ずいぶん会話の通じない相手だな」
「その……元婚約者です。私は彼に婚約破棄されたのですが……」
「自分から捨ておいて復縁を迫っているのか。呆れた男だ」

 侯爵の低い声には、静かな怒りと深い呆れが滲んでいる。

「心配はいらない。実は今朝、エリオス殿から正式に君との縁談話をもらった」
「えっ……」

 まさか、エリオスが本当に公式的に縁談を申し出てくれていたなんて。
 口約束だけではなく、彼はきちんと形にしてくれたのだ。

「ハルトマン家としては君が嫁いでしまうのは寂しいが、喜ばしいことでもある。君の気持ちを訊きたい」
「あ……私も、エリオスと結婚したいと思っています」

 すると侯爵はふと目を細め、柔らかい笑みを浮かべた。

「では、我々は今後、君を全力で元婚約者や元家族から守ることを誓うよ」
「ありがとうございます」

 侯爵の力強い言葉に、私は心から安堵した。

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