すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
「レイラ……もっと、よく顔を見せてほしい」
「え?」

 俺はゆっくりと手を伸ばし、彼女の頬に触れた。
 その瞬間、彼女の瞳が大きく見開かれた。

「エリオス? あなた、目が……!」
「……ああ。不思議だ……君の顔が、見える」

 レイラは表情を崩し、大粒の涙を流した。
 彼女は口もとを手で押さえ、嗚咽を洩らしながら呟く。

「ああ、神様……ありがとうございます。こんな奇跡を……」

 彼女の祈るような震え声が、胸の奥に深く沁みる。
 俺はゆっくりと手を伸ばし、彼女の涙をそっと拭った。
 すると彼女は俺の手を握りしめ、涙を流しながら微笑んだ。

 とても綺麗だと思った。
 想像していたよりもずっと、彼女は美しくて愛おしい。


「レイラ……やはり、君はとても綺麗だ」

 その言葉に、レイラは涙を拭いながら、やわらかく口もとを上げた。
 その微笑みは、優しく、穏やかで、どこか子供のように可愛らしい。

 俺はしばらく彼女を見つめたあと、久しぶりに部屋の中の光景に目を走らせた。
 窓辺から差し込む月光が、床や壁を淡く照らしている。
 その静かな輝きを見つめていると、胸の奥が強烈に締めつけられる。

 世界はこれほど美しい色をしていたのか――

 忘れかけていた遠い記憶の色が、ゆっくりと心の中によみがえっていく。
 気がつくと、頬を伝って静かに涙がこぼれていた。

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