すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
「綺麗な夜だわ」

 そういえば鳥も獣も一切いない。
 あまりに静かな森だ。

 頭の中に不思議な光景が閃いた。


 絵にしたくてたまらない。
 筆を握ることはできないけれど、私は代わりに中空に右手を掲げて、絵を描くように腕だけ動かした。

 ただ、私の腕が右から左へ、上から下へ、斜めへと動くだけ。
 それでも私の頭の中には確実に私の描く絵が仕上がっていく。

 目の前には何もないのに、私は頭の中で出来上がっていく絵に感動し、高揚感が湧いてきた。


 こんなふうに描きたいわ。
 そう思いながら完成した絵は自分の目にしか見えないものだ。

 月明かりに照らされて、光の中に浮かび上がる私の絵は、今まで描いたものの中で一番いい出来だった。


「なぜかしら。不思議だわ。空想で描いただけなのに、実際にそこにあるように見えるわ」

 そう。私が想像だけで頭の中で描いた絵は、実際に目で見えている。
 だけどきっと、それさえも私の想像にすぎない。


 そう思っていたのに――

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