すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
「君の絵は安らぎをもたらす。慌しい日々の喧噪の中で、どこか別の世界へ連れていってくれるような、心を落ち着かせてくれる効果がある」
「……ありがとうございます」

 もう、これ以上ない褒め言葉だと思った。
 けれど、彼は次にとんでもない提案をしてきた。


「どうだろう? 俺のために絵を描いてくれないだろうか。もちろん相応の報酬は支払う」

 なんて素晴らしい依頼だろう。
 けれど、それは不可能だ。
 私はわずかに笑みを浮かべて、静かに答える。


「実は、私はもう廃業しました。右手に怪我を負って、筆が持てないのです」
「そうだったのか」

 彼の声がわずかに揺れる。
 本当に残念に思ってくれているのだろう。その気持ちだけでも充分だ。


「では、今見えているこの光の絵は、どういう仕組みなのだ?」
「私にもわかりません。想像で描いた絵が、月明かりで浮かび上がっただけで……私自身、とても驚いています」
「なるほど。では君は、奇跡の絵を描く人なのかもしれないな」
「えっ……」

 その言葉に戸惑っていると、彼はおもむろに語り始めた。

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