すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
「湯浴みの支度をいたしましょう。お手伝いいたしますわ」

 侍女たちが浴槽に湯を張ってくれたが、私は慌てて首を振る。

「あの、自分でできますので」
「ですが、お怪我に差し障ってはなりませんから」

 ああ、そうだった。
 私はもう右手が使えないのだ。

「では、髪を洗うだけ手伝っていただけますか?」
「はい、喜んで」

 侍女たちは最後まで丁寧で、私の右手が湯に触れないよう細やかに気を配ってくれた。

 右手はやはり目を背けたくなるほど異様に腫れ上がっている。
 それでも、彼女たちは一言も触れず、ただ穏やかな笑顔で接してくれる。

 その優しさが胸に沁みて、私は滲んだ涙を湯の中にそっとこぼした。


 部屋に戻ると、丸いテーブルの上に軽食が用意されていた。
 香ばしいパンに温かいスープ。
 けれど空腹のはずなのに、胃が食べ物を受けつけてくれない。
 少しだけパンを口にしてスープを飲むと、それだけで満たされた。

 ふかふかのベッドに横たわると、甘い香水の香りにふわっと包まれて、すぐにまぶたが重くなった。

 これは現実だろうか、それとも夢なのかしら。
 けれど今は疲れ果ててしまっていて、そんなことをじっくり考える余裕もなく、私は深い眠りへ落ちていった。

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