すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
 レイラの気配が、少しやわらいだように思える。
 彼女はわずかでも笑えているのだろうか。
 この目で確かめられないのが、ただ歯がゆい。

 やがて、彼女が物静かな声で口を開いた。


「あの夜の絵が描けないの。月明かりが関係しているのかと思って、月の出る夜に何度も試しているのだけど」
「焦らなくていい。時間はたっぷりある。まずは体を休めることが大事だ」
「けれど、いつまでも仕事をせずにお世話になるばかりなのは心苦しいわ」
「君は働き者なんだな」
「ずっと仕事ばかりしてきたもの。それでも、私には絵を描くことしかできなかった」

 ハルトマン家に行けば、何か手がかりが見つかるかもしれない。
 彼女はまだ素性を知られたくないようだから、慎重に話を進めるべきだが。


「前に、君と同じような絵を描く人に会ったことがあると言っただろう?」
「ええ。あなたを救ってくださった方ね」
「そうだ。彼は……」

 彼は君とそっくりの顔をしていたらしい、ということを伝えるのはまだ早いな。

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