すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
「では、旅行の計画を立てよう。ああ、楽しみだな」
「私は旅行をしたことがないの。少し不安だわ」
「そうか。では、俺との旅行が初めてということになるのか」
「ええ、そうなるわね」

 旅行の経験がないということは、ほとんど家を出たことがないのだろう。
 それなのに、あの夜、ひとりで森を彷徨っていたとは――
 いや、不安を感じる余裕すらないほど、彼女は絶望していたに違いない。


 翌日、俺はすぐにハルトマン侯爵宛に手紙を書き、簡潔に事情を説明した。
 ほどなく返事が届いた。おそらく、手紙を受け取って目を通すや否や、すぐに筆を執ったのだろう。
 それほどに、向こうも驚いているはずだった。

 侯爵の返事には、まずこちらを訪問したいと記されていた。
 俺はすぐに受け入れの準備を整えることにした。

 そして半月も経たないうちに、ハルトマン侯爵は我が家を訪れることとなった。

< 72 / 231 >

この作品をシェア

pagetop