すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
「いや、何でもない。俺が邪魔してはいけないな。これで失礼するよ」

 彼はそう言って私に背中を向けて、扉のほうへ手を伸ばす。
 私は慌てて彼の腕を掴んだ。

「お部屋まで送るわ」
「なんとなく場所はわかるから平気だ」
「いいえ。送るわ」
「そうか。じゃあ、お願いしよう」

 エリオスはにっこり笑った。
 彼の笑顔は不思議だ。私の傷ついた心をそっと癒やしてくれる。
 普段の凛々しい顔立ちとは違い、どこか可愛らしさもある。

 それに、わずかばかり私の心を乱してしまう。
 彼と一緒にいると、安心感に包まれるだけでなく、胸の奥にひそかな熱が広がっていく。

 けれど、そんなことは口にできないから、心にそっとしまい込んだ。

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