皇帝になった幼馴染みの溺愛が止まりません
けれど……なんだか今日は、家には帰りたくなかった。

どうしても──お母さんの顔が見たかったからだ。

「ねえ、おじいちゃん。今日はお母さんのところに行ってもいい?」

「ああ、いいよ。」

おじいちゃんは脚立を抱えて庭を後にする。

その背中を見送ったあと、私は宮殿の台所へと足を向けた。

お母さんは女中として、ここで泊まり込みの仕事をしている。

父が亡くなってから、私を養うために宮殿へ上がっていったあの日──

あの背中が遠ざかっていくのを見て、子どもだった私は泣きじゃくった。

寂しくて、仕方がなかった。

だから今でも、たまにこうしてお母さんの部屋に泊まりに行き、その寂しさを埋めてきたのだ。

「……お母さん。」

「アンヌ。」

振り返ったお母さんの笑顔を見た瞬間、胸の奥に張りつめていたものが緩み、涙がこぼれそうになった。
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