あやかし×コーデ
17、いらっしゃいませ
* * *
「いらっしゃいませ」
あいさつって大事だよ。
お店に入って一番最初にかけられる、店員さんからの言葉。それでお店の印象も変わってくるからね。
だからあんたのあいさつは、まだイマイチだと思うんだ。
もうちょっと明るく言わないとさぁ。
いや、神々しいほどの美少年だから、どんなテンションで言ったって、お客さんは許してくれるかもしれないけど。
――じゃなくて!
「樹! どうしてあんたがうちの店で、店番やってるのっ!」
いつもの通り、私は百合子おばあちゃんのお店にやって来たんだ。
てっきりおばあちゃんがいるんだとばかり思っていたのに、カウンターにいたのは美少年なんだから驚いた。
「今日から百合子のところで世話になることになった」
「は?」
キョウカラユリコノトコロデセワニナル、ってどういう意味?
私は混乱しすぎて、日本語の意味すら上手く理解できなくなってしまった。
ひたすら首を傾げていると、おばあちゃんが裏から顔をひょっこりのぞかせる。
「咲、いらっしゃい。実はねぇ、樹、うちにホームステイすることになったのよ」
「ホームステイ?!」
仰天している私と、のんびり笑う百合子おばあちゃん。
「大天狗さんに頼まれたのよね、樹を引き受けてくれって。樹はファッションの勉強と、人間社会の勉強を本格的にやりたいらしいの。うちなら、あやかしにも理解があるし、ちょうどいいだろうってことで。それに、咲は樹と付き合ってるんでしょう?」
「ああ」
樹は真顔で、きっぱりと言った。
「いや……………初耳ですけど…………」
いつから私たち、付き合うことに? 付き合ってる当事者がそれを知らないことってあります?
「お前のことが気に入ったと、最初に言っている」
それが告白!? わかりにくいって!
「お前は俺が嫌いか? 咲」
樹はカウンターから出ると、ゆっくりとこちらに歩み寄り、私の前に立った。
私より背が大きい樹が、私を見下ろす。
私は樹を見上げる。
「き、嫌いじゃ、ない」
私のことをほめてくれて、守ってくれて、優しくて真面目な樹。嫌いなわけがない。
「では、好きだな」
なぜか樹は勝ち誇ったように言った。
くっ……、どうしてそんなに、自信満々なのよ!
認めると負けな気がしてくる!
けれど、私は、はっきりした性格だから。
「好きだよ!」
樹をにらみつけながら、顔を赤くして言ってやった。とても告白するような顔つきじゃなかったけどね! なにせにらんでますから!
でも、樹は満足そう。ああ、悔しい! 悔しいけど、私もこいつが好きなんだ!
「あらぁ~、相思相愛。おめでとう」
百合子おばあちゃんは拍手をしている。
「じゃあ私、お昼寝してくるから。二人とも、店番お願いねぇ」
おばあちゃんは何があっても動じない。妖怪がホームステイしようが、妖怪とひ孫が付き合おうが。
いつだって取り乱さない百合子おばあちゃん。ああいう人の血を継いでいるから、私も神経が図太いのかもしれないな。
私と樹は百合子おばあちゃんが奥に戻るのを見送ると、二人で店番を始めた。
私は座って、樹は店の中をゆっくり見回っている。
「今日のお客さんは、どっちだと思う?」
人間か、あやかしか。
「さあ。どちらでも、俺たちのすることは変わらない、だろう?」
お客さんが笑顔になれるファッションを提供する。だもんね。
ガラガラガラ、と引き戸が開いた。
夕焼け空を背負って、お客さんが入ってくる。
「いらっしゃいませ」
私と樹は声をそろえた。
ねえ、あなたはどんなファッションをお求めですか?
もしよかったら、コーデの相談、のらせて下さい。
(終)
