この夏がエンドロール

最後の夏が始まる

最後の夏。それはあたしの恋の最高のエンドロールになった。

「ごめんね、急に集まってもらっちゃって。やっぱり最後の曲変えたいの、。最後までわがままでごめんね。」そう言ったあたしに2人は
「私たちは経験者だし、萌花(もか)と3年間バンド組めて良かったって心から思ってるよ。」
「無茶ぶりは3年間変わってないけどねー」と笑う。
「萌花が真剣に悩んだ結果の選択なんでしょ?私たちはそれを盛り上げれるよう最高の演奏をするだけだよ。」そう言ってくれる2人は心強い。

あたし達は、1年で同じクラスになり全員出席番号が近くすぐに仲良くなった。歌が大好きでギターを少し趣味で弾くあたし。中学から吹部でドラムを叩いていた優佳。そして、お兄ちゃんの影響でギターとベースを弾いてきた美沙。バンドを組んだきっかけは、あたし達の単なる軽い思いつきだった。文化祭が近づいた頃、3人でカラオケに行った時だった。優佳が「文化祭、有志の部で3人でバンドしない!?」あたしも、美沙も大盛り上がりの大賛成で、こうして突然始まったのだ。
しかし、突然始まったバンドは1年目にして意外にも好評で2年生になった去年は前夜祭で歌わせてもらった。そして、今年。私たちは文化祭最終日である日曜日のお昼というゴールデンタイムに体育館で歌えることになったのだ。それだけに上手くいくようセトリも練習も重ねていた。2週間前の今日になって、最後の曲を変えたいと思い集まってもらったのだった。

「それで?どの曲にするの?わざわざ練習室に呼び出して話すってことは楽譜刷って来たんでしょ。」察しの良い優佳が言う。
「…実は、この曲なんだけど。去年流行っていたからみんなわかるにはわかると…思うん、だけど。」
私が提案した曲は去年の夏サビ前1フレーズからサビにかけて流行っていた曲だった。
「いいと思うよ。萌花は本当にこの曲でいいの?」全てを悟った美沙に問われる。
「あたし、決めたんだ。この夏で区切りをつけたいの。」
「萌花が決めたなら私たちは最高の演奏するだけ!」
「それ、何回言うのー?言いたいだけじゃん」と笑う美沙。
「そうと決まれば、練習しよう!!」
「「おおーー!!」」


この曲に決めたのは、あたしの自己満でもある。届けたい人がいたのだ。1年と2年であたしの担任だった宮口先生。あたしたちが初めての自クラスというのに先生としての貫禄がすごくて。でも生徒に親しみやすい。もちろん、あたし達とも仲はよかった。2年になって、あたしだけ違うクラスになって友達ができるか不安と話した時も「俺が見てきた限り、谷原なら大丈夫」と励ましてくれた。勉強やバンドや部活のことをよく話すようになり、だんだん距離が近づいていた、気がした。というか、クラスの友達にも「萌花と宮口先生って本当に仲良いよねー」「なんか、私たちとは違う。お気に入りって感じするもんね!」などと言われて浮かれてたのかもしれない。宮口先生と話す度にあたしの中が誰にも言えない感情に少しずつ侵されていく。わかっている。あたしは生徒だからだって。生徒に優しくするのは仕事だから。そう思う度に苦しくなる。そんな異変に1番に気づいたのは美沙だった。クラスが離れても週に一度は3人でご飯を食べようと2年になってすぐに決めた。美沙は、優佳がトイレに行ったタイミングで聞いてきた。あたしは1人で受け止めれない思いを美沙にこぼしてしまった。話している最中も、美沙に幻滅されたらどうしようとかあたしにだけ優しいとかあるわけないのに、という気持ちがぐるぐるする。美沙は、話終わったあと「萌花の気持ちはわかった。私は何もできないけど、時々話を聞くくらいはできるから。」と言い、時々はなしを聞いてくれるようになった。優佳は何も言ってないし何も聞いてこないが、彼女なりになにか感じとっているようで踏み込んでは来ない。そして、先生とは何も無いまま3年になりあたしの担任ではなくなった。もちろん進展などないまま。

今年は、受験生だ。恋に現を抜かす場合じゃない事は分かってる。だからこそ、叶わない恋の終止符をどこかで打たなければと思っていた。高3の夏休みが1番勉強が伸びると言われている。それまでには、と思っていたが、ちょうど夏休み前に文化祭がある。あたしの気持ちはバンドの曲に乗せて終わらせようと決心したのがセトリを決めていた最中だった。相も変わらず、先生とあたしは仲がいい。わざわざ職員室まで行って質問をしてしまうのもどうにかしたいが、先生も頑張ったご褒美に机の上に無造作にころがっている個包装のお菓子を渡してきたり。今日も今日とて、恋には抗えず来てしまったのだった。
「──────あー、なるほど。この公式使えば早かったんだ。。」
「谷原は、出来るようでできないからな。というか、文化祭前にも聞きに来るなんて勉強やる気じゃん。」
「バンドの練習ばっかりしててママに怒られたのでね。。」
「はは、お母さん相変わらずだな。」
そう、あたしのママは勉強に厳しく1年と2年の懇談では先生の前でもお構いなしに喧嘩をしていたのだ。
「てか、先生!!文化祭最終日のお昼ライブするから!!」
「?うん。知ってるよ?練習してるって言ってたじゃん、さっき。」
「絶対見に来てよね!あたし達3人のバンドの最後のライブなんだから。」
「懐かしいなぁ。1年の頃、俺もよく分からないのに有志の申し込みさせられたの。」
と笑いながら言ってくる。
「それはぁ!…ちょっと申し訳ないと思ってるよ。」とあたしも笑い返した。
「絶対来てよね、最高のライブにするから」
「俺、毎年呼ばれて行ってますよ?疑い深いなぁ。」
「そりゃあ疑いますよ、なんたって先生じゃん。」
「ひどいい草だなぁ。ほら、もう終わったなら帰りなさい。」
「ありがとね先生、失礼しましたー」
よし、先生誘えた!!ルンルンの気分のまま職員室を出て下足に向かう。あたし達きっと最高のライブにするから。
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