この夏がエンドロール
最後の夏の終わり
「いらっしゃいませー、たこせん売ってまーす」
「ちょっと、そこのお姉さん。射的やってかない?」
文化祭は大盛り上がりだ。あたし達の学校は土曜日と日曜で文化祭を行うが、土曜日は身内のみ。つまり、生徒の保護者しか来れない。しかし、日曜日はフリーで近所の人も友達も色んな人がいっぱい来る。あたしたちのクラスはたこ焼きを売っているが列が凄すぎて早々から整理券を配り始めた。
「萌花、もう時間やばくない??変わるから行ってきなよ。」時計を見ると12時半。ライブは14時から。
その間に衣装やメイク、音出しなど色々なことをしなければならないため、3人で12時半集合にした。
「やっば、もう行かなきゃ。ごめん、あとは任せた。」
クラスの子達に謝りながら、体育館の側の小さなホールに向かう。
「ごめん、遅れた!!」駆け込みながら謝ると
「私たちもついさっき来たばっかだから全然セーフだよ」
「着替えてからメイクして音出しだけど、まだ体育館使ってるしそんなに慌てなくても大丈夫な気がする。」
と2人は落ち着いている。
あたし達は、最後のバンドとして3人でお揃いのTシャツを作った。黒地にシンプルに今日のライブのタイトルを筆記体で表記されているだけのものだが。これを作るために、今日のライブ名まで考えたのだ。悩みに悩んだ末に最後の夏にバンドが終わることを由来に『Last Summer's Endroll』と文字を入れた。下はお揃いで買った最近流行っている白のバルーンスカート。ライブでは、みんなペンライトを降ってくれることから好きな色のバンダナを腰に巻くことにしあたしが赤。優佳が青。美沙が紫のバンダナをつけている。そうこうしている間に、メイクまで終わり楽器を持って人が体育館から出ていく様子を窓から覗く。
「人が居なくなったら、体育館へ行こうか。」
「そうしよう、ドキドキするな。これで最後なんて。」
「あの日のカラオケから始まったなんて誰も思わなかったよね。」
懐かしさと寂しさ、期待に胸をふくらませて体育館に向かい音出しを始める。体育館でライブをするのは去年からで2回目だ。体育館での音の響き方を思い出しながら通し練習を始める。14時からのライブは13時半から入場が始まるので時間は少し短い。通し練2回目の途中でタイムリミットが近づきすぎたので袖に戻った。
「人いっぱいになるかなー。やばい、本当にドキドキしてきた。」
「人いっぱいになるでしょ。この時間帯暑いしみんなご飯も食べ終わって教室展示と食べ物系以外何もやってないんだから。」
そう、このライブの時間に他の体験型アトラクションは全て休憩時間に入るのだ。そこの調整をしてくれた先生方には感謝しかない。
開始10前のアナウンスが鳴り響く。体育館は次第に暗くなっていく。まるであたし達の緊張を表すかのように黒く澄んでいた。
「もうすぐ時間です」と文化祭実行委員の方に呼ばれた。スマホを見ると13時58分。オープニングは、アーティストのライブを参考に始まる前にあたし達の紹介動画が2分だけ流れる。
盛り上がってくれよ、と願いながら動画の再生ボタンを押す。
わぁ!!!!!!!動画が始まると同時に歓声が上がる。よし、掴みは最高。あたし達は3人で円陣を組む。
「これまでの練習全部無駄じゃなかったって思える最高のライブにしよう。」
「3年間乗り越えてきたんだよ、大丈夫。私たちが1番。」
「じゃあ、高校生活最後のバンド。最高に盛り上がろう。」
おぉー!!!!
円陣を終わると同時に動画が終わった。
急いで位置につき、幕が上がる。
♬♪•*¨*•.¸¸♬•*¨*──────
1曲目は、美沙のギターソロから始まる最近流行りの夏曲だ。
「皆さん、盛り上がっていきましょー!!!」
盛り上がりは完璧。1曲目の勢いに乗せたまま2曲目へと続く。盛り上がりを崩さぬよう、2曲目も流行りのアップテンポの曲。
──────「ふぅ、今日は皆さんあたし達のライブに来てくれてありがとうございます!盛り上がってくれましたかー!」いぇーいと歓声が響き渡る。
「暑いよねー、先生達後ろのドアちょっと開けてあげて!なんならクーラーもガンガンに!!あはは、冗談だよー。でも、このままどんどんみんなのこと熱くするからねー。続いても2曲目行きます!ちょっとバラード寄りになるの、かな??さっきよりはちょっと落ち着いてるけどまだまだ盛り上がりましょう!」
拍手が鳴り止まない。ああ、上手くMC出来てよかった。正直、不安だったのは何も考えていなかったこの2曲目と3曲目の合間のMCだった。ここを乗り越えればもう怖いものなどない。少しバラード寄りの3曲目に続き、4曲目のイントロが始まる。もう少しで終わってしまう。夏の定番曲を沢山候補に出して誰もが盛り上がれるように構成した。知らない人は居ない定番曲を集めた。ラストの曲以外は。去年サビ前ワンフレーズからサビにかけて流行ったとはいえ、知る人ぞ知る流行り曲ではあった。けれど、届けたい人がいるから。ここで区切りをつけるためのあたしのための曲。こんな自己満でも許してくれたふたりには感謝しかない。曲が終わる事に起こる大きな拍手もこれで4回目だ。
「ありがとうございます!!最後の曲に行く前に少し話をしようと思います。その前に少し扇風機もらおっかな。あはは、また後ろのドア開けてもらっていいですかー!」少し明るくなった体育館で話を続け全体を見回しながらあたしは人を探す。
「ふぅ、あたし達は1年の時カラオケでバンドを組みました。びっくりした?そう。最初はノリだったんです。やってみたら面白いんじゃない?って。それが有志の部から去年生徒会さんに後夜祭オファーを受けて、最後の年であった今日。こんなにいっぱいの人で体育館でライブできて。あたし達、想像もしてませんでした。ふふ、なんかメジャーデビューするバンドみたいになってるけど。言いたいのは、こんなにもいっぱいの人の前で演奏できて、歌えて本当に良かった!最後の曲は''あたし達''の区切りとなる曲です。」……見つけた。少し微笑んでタイトルコールをする。
「聞いてください、──────」
ベースとドラムの三拍子でインパクトがあるイントロから始まる。盛り上がりには最高の始まり。ちゃんと見ててね。
──────あたしなにかが足りないみたい
あの日から誰にも言えない想いを抱いた日からあたしの足は止まってるんだよ。なにかが足りない、そう。なにかが足りてないんだよ。胸にぽっかり穴が空いているように。あたしの思いが全てこぼれ落ちていく。
─────あたしなんでもない日々が愛しかった
そう、なんでもないあの授業終わりの雑談とか、どうでもいいこと話していた時間が大好きだった。職員室まで行ったのに聞いている途中でわかって飴もらって帰ったとか。些細なことで嬉しくなれたの。
──────ああ これが今年最後の花火だなんて
観客も盛り上がっている、良かった。みんなここまで来たら知っている人もいたようだ。花火なんて、誘えなかったよ。誘っても断られるのは目に見えてる。所詮、生徒と先生。こんなもんなのだ。でもあたしが花火になったら先生は見てくれるよね。
──────何度も何度も光放って
何回も何回も諦めようとした。あたしは弱い。結局ここまでしなきゃずっと引き摺ってしまう。笑いかけてもらう度に苦しくなってたこと知らないでしょ。
──────何度も何度も消えていくのだ
あたしが光を捕まえれそうになれば、自分から消えていくのにね。あたし、こんな恋に焦がれてた。わかってるよ、もうすぐ終わってしまう。終わりたくないな。
──────さよならメイビー会えなくなるけど
もう、質問は最小限にする。もう会いに行くのも辞める。3年になってから、先生のクラスで他の子と話してるのを見て辛くなって対抗して職員室寄ってたなんて言ったら先生はどう思うのかな。最低限の出会いだけにするから。
──────終わる夏へ また会いましょう いつか
全体を見回しながら、先程見つけた時にいた所を見ながら歌った。目が合った気がした。きっとあたしはこの夏を一生忘れない。先生の中できっと何気ない教師生活で教え子がバンドを終えた夏はそのうち忘れるような出来事だと思う。新しく好きな人が出来て、彼氏が出来てもこの夏は一生消えない。そんな夏になったと思う。これがあたしなりの恋の終止符。
大きな歓声と拍手に包まれながらお辞儀をして舞台袖に捌ける。捌けたあと、3人で目を合わせて抱き合って泣いた。記念の写真撮影などのため、次は外に出なければならない。体育館の袖から外に繋がるドアを開けると、先生たちが持ち場に帰るところだった。もちろん、宮口先生も。
「お、バンドめっちゃ良かったぞ。」
「お前ら、よくやったな!」先生たちが口々に感想を伝えてくれるが宮口先生は無口のまま。しかし、隣を通る際
「谷原、文化祭終わったら片付けの話あるから職員室来てくれ」と話しかけられた。
そういえば、あたしは文化祭実行委員だったなと思い返すが、感想なかったんだという気持ちの方がでかく掠れた声で返事をしたあと優佳と美沙に続いて駆け足で外へ向かう。
これでよかった。外へ出ると友達や後輩など色んな人に囲まれ記念撮影をし、花束までもらい号泣してしまった。
文化祭もついに終わりを告げる放送が入る。そういえば、片付けで話があるとか言ってたっけ。職員室向かわなきゃ。
「失礼します、3年5組の谷原です。宮口先生いらっしゃいますか?」と挨拶するとすぐに宮口先生が出てきた。
「おう、こっち来い。」軽く手を上げる先生は奥の方へいて、職員室は先生以外誰もいなかった。
「なんであたしがわざわざ呼ばれるのよ。バンドもあって大変だったし、委員長でも呼べば良かったのに。」
そう言うと先生は少し黙って
「…谷原さ、最後の曲なんだっけあれ。」なんで急にそんなこと聞くんだろう。鼓動が早くなる。自分でも焦っているのがわかる。「あの曲の最後俺の方見なかった?」バレてる。そりゃそうだよな。先生は真正面というより、右端の出やすい場所で少し醜い場所にいた。全体を見ながら歌っていたとしてもあまりそこまで見えないところだったので、そういう演出であるかのような見方をして歌ったのが先生は気づいていたのだ。
「え、そう思った?ああいう歌い方になるとそっちの方見ちゃうんだよ。」わかっている。ここで少しでも動揺すれば先生のことが好きだとバレる。それだけは避けたい。このままじゃないとこれから先がしんどい。というか、あたしが立ち上がれない。
「…ふーん。じゃあ、片付けの話なんだけど────」
あっさりと引き下がって貰えて片付けの話を聞き、職員室を出ようとした時、先生に腕を掴まれた。
「えっ、あの。」としか声の出ないあたしの目を見つめる。「ありがとう。」え?「そう言わなきゃダメな気がしたから。片付け頼んだわ。」そう言ってまた奥へ戻っていく。あたしの気持ちが伝わったが故のありがとうなのか、最後のライブに誘ってくれてありがとうなのか。あたしには知る由もない。けれど、その一言で全てが報われた気がした。先生は''何に対して''ありがとうなのか言わなかった。それはあたしの解釈でいいということなのだろうか。それとも……。考えるのはやめよう。これで綺麗に幕は閉じる。クラスに帰って早くゴミの処理を伝えなければ。その前に委員長に伝えるか。そう考えながら教室へ向かった。
「ちょっと、そこのお姉さん。射的やってかない?」
文化祭は大盛り上がりだ。あたし達の学校は土曜日と日曜で文化祭を行うが、土曜日は身内のみ。つまり、生徒の保護者しか来れない。しかし、日曜日はフリーで近所の人も友達も色んな人がいっぱい来る。あたしたちのクラスはたこ焼きを売っているが列が凄すぎて早々から整理券を配り始めた。
「萌花、もう時間やばくない??変わるから行ってきなよ。」時計を見ると12時半。ライブは14時から。
その間に衣装やメイク、音出しなど色々なことをしなければならないため、3人で12時半集合にした。
「やっば、もう行かなきゃ。ごめん、あとは任せた。」
クラスの子達に謝りながら、体育館の側の小さなホールに向かう。
「ごめん、遅れた!!」駆け込みながら謝ると
「私たちもついさっき来たばっかだから全然セーフだよ」
「着替えてからメイクして音出しだけど、まだ体育館使ってるしそんなに慌てなくても大丈夫な気がする。」
と2人は落ち着いている。
あたし達は、最後のバンドとして3人でお揃いのTシャツを作った。黒地にシンプルに今日のライブのタイトルを筆記体で表記されているだけのものだが。これを作るために、今日のライブ名まで考えたのだ。悩みに悩んだ末に最後の夏にバンドが終わることを由来に『Last Summer's Endroll』と文字を入れた。下はお揃いで買った最近流行っている白のバルーンスカート。ライブでは、みんなペンライトを降ってくれることから好きな色のバンダナを腰に巻くことにしあたしが赤。優佳が青。美沙が紫のバンダナをつけている。そうこうしている間に、メイクまで終わり楽器を持って人が体育館から出ていく様子を窓から覗く。
「人が居なくなったら、体育館へ行こうか。」
「そうしよう、ドキドキするな。これで最後なんて。」
「あの日のカラオケから始まったなんて誰も思わなかったよね。」
懐かしさと寂しさ、期待に胸をふくらませて体育館に向かい音出しを始める。体育館でライブをするのは去年からで2回目だ。体育館での音の響き方を思い出しながら通し練習を始める。14時からのライブは13時半から入場が始まるので時間は少し短い。通し練2回目の途中でタイムリミットが近づきすぎたので袖に戻った。
「人いっぱいになるかなー。やばい、本当にドキドキしてきた。」
「人いっぱいになるでしょ。この時間帯暑いしみんなご飯も食べ終わって教室展示と食べ物系以外何もやってないんだから。」
そう、このライブの時間に他の体験型アトラクションは全て休憩時間に入るのだ。そこの調整をしてくれた先生方には感謝しかない。
開始10前のアナウンスが鳴り響く。体育館は次第に暗くなっていく。まるであたし達の緊張を表すかのように黒く澄んでいた。
「もうすぐ時間です」と文化祭実行委員の方に呼ばれた。スマホを見ると13時58分。オープニングは、アーティストのライブを参考に始まる前にあたし達の紹介動画が2分だけ流れる。
盛り上がってくれよ、と願いながら動画の再生ボタンを押す。
わぁ!!!!!!!動画が始まると同時に歓声が上がる。よし、掴みは最高。あたし達は3人で円陣を組む。
「これまでの練習全部無駄じゃなかったって思える最高のライブにしよう。」
「3年間乗り越えてきたんだよ、大丈夫。私たちが1番。」
「じゃあ、高校生活最後のバンド。最高に盛り上がろう。」
おぉー!!!!
円陣を終わると同時に動画が終わった。
急いで位置につき、幕が上がる。
♬♪•*¨*•.¸¸♬•*¨*──────
1曲目は、美沙のギターソロから始まる最近流行りの夏曲だ。
「皆さん、盛り上がっていきましょー!!!」
盛り上がりは完璧。1曲目の勢いに乗せたまま2曲目へと続く。盛り上がりを崩さぬよう、2曲目も流行りのアップテンポの曲。
──────「ふぅ、今日は皆さんあたし達のライブに来てくれてありがとうございます!盛り上がってくれましたかー!」いぇーいと歓声が響き渡る。
「暑いよねー、先生達後ろのドアちょっと開けてあげて!なんならクーラーもガンガンに!!あはは、冗談だよー。でも、このままどんどんみんなのこと熱くするからねー。続いても2曲目行きます!ちょっとバラード寄りになるの、かな??さっきよりはちょっと落ち着いてるけどまだまだ盛り上がりましょう!」
拍手が鳴り止まない。ああ、上手くMC出来てよかった。正直、不安だったのは何も考えていなかったこの2曲目と3曲目の合間のMCだった。ここを乗り越えればもう怖いものなどない。少しバラード寄りの3曲目に続き、4曲目のイントロが始まる。もう少しで終わってしまう。夏の定番曲を沢山候補に出して誰もが盛り上がれるように構成した。知らない人は居ない定番曲を集めた。ラストの曲以外は。去年サビ前ワンフレーズからサビにかけて流行ったとはいえ、知る人ぞ知る流行り曲ではあった。けれど、届けたい人がいるから。ここで区切りをつけるためのあたしのための曲。こんな自己満でも許してくれたふたりには感謝しかない。曲が終わる事に起こる大きな拍手もこれで4回目だ。
「ありがとうございます!!最後の曲に行く前に少し話をしようと思います。その前に少し扇風機もらおっかな。あはは、また後ろのドア開けてもらっていいですかー!」少し明るくなった体育館で話を続け全体を見回しながらあたしは人を探す。
「ふぅ、あたし達は1年の時カラオケでバンドを組みました。びっくりした?そう。最初はノリだったんです。やってみたら面白いんじゃない?って。それが有志の部から去年生徒会さんに後夜祭オファーを受けて、最後の年であった今日。こんなにいっぱいの人で体育館でライブできて。あたし達、想像もしてませんでした。ふふ、なんかメジャーデビューするバンドみたいになってるけど。言いたいのは、こんなにもいっぱいの人の前で演奏できて、歌えて本当に良かった!最後の曲は''あたし達''の区切りとなる曲です。」……見つけた。少し微笑んでタイトルコールをする。
「聞いてください、──────」
ベースとドラムの三拍子でインパクトがあるイントロから始まる。盛り上がりには最高の始まり。ちゃんと見ててね。
──────あたしなにかが足りないみたい
あの日から誰にも言えない想いを抱いた日からあたしの足は止まってるんだよ。なにかが足りない、そう。なにかが足りてないんだよ。胸にぽっかり穴が空いているように。あたしの思いが全てこぼれ落ちていく。
─────あたしなんでもない日々が愛しかった
そう、なんでもないあの授業終わりの雑談とか、どうでもいいこと話していた時間が大好きだった。職員室まで行ったのに聞いている途中でわかって飴もらって帰ったとか。些細なことで嬉しくなれたの。
──────ああ これが今年最後の花火だなんて
観客も盛り上がっている、良かった。みんなここまで来たら知っている人もいたようだ。花火なんて、誘えなかったよ。誘っても断られるのは目に見えてる。所詮、生徒と先生。こんなもんなのだ。でもあたしが花火になったら先生は見てくれるよね。
──────何度も何度も光放って
何回も何回も諦めようとした。あたしは弱い。結局ここまでしなきゃずっと引き摺ってしまう。笑いかけてもらう度に苦しくなってたこと知らないでしょ。
──────何度も何度も消えていくのだ
あたしが光を捕まえれそうになれば、自分から消えていくのにね。あたし、こんな恋に焦がれてた。わかってるよ、もうすぐ終わってしまう。終わりたくないな。
──────さよならメイビー会えなくなるけど
もう、質問は最小限にする。もう会いに行くのも辞める。3年になってから、先生のクラスで他の子と話してるのを見て辛くなって対抗して職員室寄ってたなんて言ったら先生はどう思うのかな。最低限の出会いだけにするから。
──────終わる夏へ また会いましょう いつか
全体を見回しながら、先程見つけた時にいた所を見ながら歌った。目が合った気がした。きっとあたしはこの夏を一生忘れない。先生の中できっと何気ない教師生活で教え子がバンドを終えた夏はそのうち忘れるような出来事だと思う。新しく好きな人が出来て、彼氏が出来てもこの夏は一生消えない。そんな夏になったと思う。これがあたしなりの恋の終止符。
大きな歓声と拍手に包まれながらお辞儀をして舞台袖に捌ける。捌けたあと、3人で目を合わせて抱き合って泣いた。記念の写真撮影などのため、次は外に出なければならない。体育館の袖から外に繋がるドアを開けると、先生たちが持ち場に帰るところだった。もちろん、宮口先生も。
「お、バンドめっちゃ良かったぞ。」
「お前ら、よくやったな!」先生たちが口々に感想を伝えてくれるが宮口先生は無口のまま。しかし、隣を通る際
「谷原、文化祭終わったら片付けの話あるから職員室来てくれ」と話しかけられた。
そういえば、あたしは文化祭実行委員だったなと思い返すが、感想なかったんだという気持ちの方がでかく掠れた声で返事をしたあと優佳と美沙に続いて駆け足で外へ向かう。
これでよかった。外へ出ると友達や後輩など色んな人に囲まれ記念撮影をし、花束までもらい号泣してしまった。
文化祭もついに終わりを告げる放送が入る。そういえば、片付けで話があるとか言ってたっけ。職員室向かわなきゃ。
「失礼します、3年5組の谷原です。宮口先生いらっしゃいますか?」と挨拶するとすぐに宮口先生が出てきた。
「おう、こっち来い。」軽く手を上げる先生は奥の方へいて、職員室は先生以外誰もいなかった。
「なんであたしがわざわざ呼ばれるのよ。バンドもあって大変だったし、委員長でも呼べば良かったのに。」
そう言うと先生は少し黙って
「…谷原さ、最後の曲なんだっけあれ。」なんで急にそんなこと聞くんだろう。鼓動が早くなる。自分でも焦っているのがわかる。「あの曲の最後俺の方見なかった?」バレてる。そりゃそうだよな。先生は真正面というより、右端の出やすい場所で少し醜い場所にいた。全体を見ながら歌っていたとしてもあまりそこまで見えないところだったので、そういう演出であるかのような見方をして歌ったのが先生は気づいていたのだ。
「え、そう思った?ああいう歌い方になるとそっちの方見ちゃうんだよ。」わかっている。ここで少しでも動揺すれば先生のことが好きだとバレる。それだけは避けたい。このままじゃないとこれから先がしんどい。というか、あたしが立ち上がれない。
「…ふーん。じゃあ、片付けの話なんだけど────」
あっさりと引き下がって貰えて片付けの話を聞き、職員室を出ようとした時、先生に腕を掴まれた。
「えっ、あの。」としか声の出ないあたしの目を見つめる。「ありがとう。」え?「そう言わなきゃダメな気がしたから。片付け頼んだわ。」そう言ってまた奥へ戻っていく。あたしの気持ちが伝わったが故のありがとうなのか、最後のライブに誘ってくれてありがとうなのか。あたしには知る由もない。けれど、その一言で全てが報われた気がした。先生は''何に対して''ありがとうなのか言わなかった。それはあたしの解釈でいいということなのだろうか。それとも……。考えるのはやめよう。これで綺麗に幕は閉じる。クラスに帰って早くゴミの処理を伝えなければ。その前に委員長に伝えるか。そう考えながら教室へ向かった。