もう分別のある 大人ですから
白石の行動力は侮れないと、夏希は二日後に思い知らされた。

どうやって話を通したのかは知らないが、営業部の歓迎会に受付も一緒に参加する流れになったらしい。夏希は行かないつもりでいたのに、白石の猛烈な誘いに断れず、結局参加することになってしまった。

金曜日の夜は、本来なら彼氏の冬馬の家に泊まりに行く日だ。
歓迎会があることを伝えると、冬馬は少し嫌そうな態度で、早く帰ってくるように言った。

そして金曜の夜。
業務が終わると、夏希は白石と一緒に指定された店へ向かった。

「こんばんはー」

白石が明るい声で挨拶しながら店に入る。
その瞬間、夏希は春とばっちり目が合った。

軽く会釈をして視線を落とし、他の受付の人たちと一緒に席につく。

飲み物が配られ、営業部の部長が乾杯の挨拶をすると、店内は和やかな雰囲気に包まれた。
夏希は白石と同じテーブルで、その隣のテーブルに春が座っていた。

夏希のテーブルには、営業部の男性社員が三人と白石。

「受付の白石千秋です!お願いします」

白石が先陣を切って自己紹介をすると、その場の空気が一気にほぐれる。
続いて視線が夏希に集まり、慌てて挨拶をした。

極度の人見知りな夏希にとって、こういう場は正直得意ではない。
白石が場を回してくれるおかげで、あまり喋らずに済んでいた。

「二人は出身どこ?」

白石の向かいに座る営業部の紫村が話題を振る。
白石が地元の話を始めると、地元が近い男性陣と盛り上がっていく。

夏希は、地名を聞いてもさっぱり分からず、静かに聞いていた。

話がひと段落すると、今度は夏希に視線が向く。

「愛知です」

具体的な地名はあえて言わなかった。

「あれ?たしか赤澤も愛知じゃなかった?」

紫村がそう言って、赤澤を見る。

「赤澤さんとは中学の同級生って、この前言ってました」

「え、そうなの?」

紫村は興味深そうに夏希を見た。

「はい。この前、受付で久しぶりに会ってびっくりしました」

紫村は赤澤を呼び、夏希たちのテーブルへ誘った。
赤澤は椅子を持って移動してくる。

「言ってくれれば席変わったのに」

そう言われて、赤澤は少し困ったような表情をした。

「同級生って言っても、中三しか同じクラスじゃなかったし……そんなに話したこともなくて」

助けを求めるように夏希を見る。

「そ、そうなんです。中学生って、男女でグループ分かれますし」

「それもそっか。思春期真っ盛りだもんな」

会話が途切れそうになると、白石がすかさず入った。

「赤澤さんの学生時代の話、聞きたいです!」

「俺?大したことないですよ」

「部活は何やってたんですか?」

「弓道」

「やってそう」

赤澤の落ち着いた雰囲気に、弓道はよく似合っていた。

「やんちゃエピソードとかないんですか?」

少し酔いも回り、場はさらに和んでいく。

「青葉さん、何か覚えてる?」

突然振られ、夏希は少し考えた。

「……あっ」

「なんかあるな」

赤澤をちらっと見てから、話し始める。

「中三のとき、男子がジャンプして天井に触れる遊びしてたんですけど、赤澤くんだけグーで天井に穴開けちゃって」

赤澤は「そんなこともあったな」という顔をしていた。

「結局、正直に先生に言って、よく分からない部屋に連れて行かれてました」

「中三っぽいな」

笑いが起きる。

夏希はお酒のせいか、普段よりよく喋っていた。
体が熱く、下ろした髪を肩にまとめる仕草に、男性陣の視線が集まっていた。

「青葉さんは、どんな学生だったんですか?」

質問が夏希に向くと、今度は赤澤にも話が振られた。

「名簿前後で。テストの日、消しゴム忘れて聞いたら、半分に割って貸してくれた」

夏希はその記憶がなかった。

でも、そんな些細なことを覚えている赤澤に、少し驚いた。

話が落ち着いたところで、夏希はトイレに立つ。
白石も一緒だった。

「赤澤さん、やっぱカッコいいですよね」

「久しぶりに喋った」

「連絡先交換したいなあ」

「私は一応、彼氏いるから」

「一応って言い方」

「結婚考えると、どうなのか分からなくて」

酔っている自覚はあった。
普段なら言わないことまで口にしていた。

お開きになり、店を出る。
連絡先を聞かれた夏希は丁寧に断り、赤澤も同じだった。

二人は並んで駅へ向かう。

「赤澤くん、その呼び方落ち着かん」

「ごめん。でも久しぶりすぎて」

「前と一緒でいい」

改札前で別れる。

「またね」
「夏希、今度ご飯行かん?」

「……また、みんなでね」

ホームに降りると、冬馬からのLINEが何件も届いていた。

〈もう終わった?〉
〈気をつけて〉
〈電車乗った?〉

夏希は電話をかけながら、足早にホームへ向かった。
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