もう分別のある 大人ですから
夏希は冬馬の家に着くと、合鍵で静かにドアを開けた。
「ただいま」
「おかえり。……あれ、夏希、酔ってる?」
「あー……少しだけ」
自分でも分かるくらい、足元がふわりとしていた。
いつもなら背筋を伸ばしているのに、今日は力が入らない。
冬馬は一瞬、夏希の様子を観察するように見てから、視線を外した。
その表情が、なぜか少しだけ冷たく見えた。
夏希がピアスやネックレスを外し、服に手をかけた瞬間、背後から強く抱きしめられる。
「夏希……」
逃げ場を塞ぐような腕。
息が詰まり、体が反射的に固まった。
唇が触れ、もう一度重ねられそうになったところで、夏希は小さく身をよじった。
「待って……今日は疲れてて。先にお風呂、入りたい」
言葉はちゃんと口にしたはずだった。
けれど冬馬は一瞬ためらっただけで、何も言わずに腕をほどき、ベッドへ向かった。
浴室にこもり、湯船に身を沈める。
お湯の温度が、じわじわと皮膚に染みてくる。
ぼんやりと目を閉じると、浮かんできたのは赤澤の顔だった。
「またご飯行かん?」
あれは、社交辞令だったのか、それとも。
「みんなで」と濁した自分の返事も、今さらのように胸に引っかかる。
赤澤のことを考えると、心臓が少しだけ早く打つ。
彼氏の家にいて、こんなことを考えている自分が嫌なのに、思考は止まらなかった。
髪を乾かし、ベッドに入る。
布団に入った瞬間、後ろから体温が重なった。
冬馬の腕が、迷いなく回ってくる。
「……冬馬」
返事の代わりに、首元に吐息が落ちる。
服の上から触れられ、身体が強張るのが自分でも分かった。
「だめ?」
問いかけの形をしているのに、選択肢はない声。
「今日は……」
言い切る前に、うなじに唇が触れ、耳元で低く囁かれる。
「お願い」
懇願するようでいて、離す気はない。
夏希の身体だけが、強引に引き寄せられていく。
拒みきれず、夏希は言葉を失ったまま身を任せた。
どこかで、自分の感情が置き去りにされていく感覚があった。
抱かれている間も、頭の奥には別の人の影が残っている。
それに気づくたび、胸の内側が冷えていった。
その夜の冬馬は、いつもより執拗だった。
夏希の反応など気に留めていないようで、自分の欲だけを確かめるように、何度も求めてくる。
「待って……」
何度口にしても、届かない。
やがて、冬馬は満足したのか、夏希から離れるとすぐに眠りに落ちた。
規則正しい寝息が聞こえる中、夏希はしばらく動けずにいた。
心も体も、どこか切り離されたまま。
そのまま、意識が沈んでいった。
「ただいま」
「おかえり。……あれ、夏希、酔ってる?」
「あー……少しだけ」
自分でも分かるくらい、足元がふわりとしていた。
いつもなら背筋を伸ばしているのに、今日は力が入らない。
冬馬は一瞬、夏希の様子を観察するように見てから、視線を外した。
その表情が、なぜか少しだけ冷たく見えた。
夏希がピアスやネックレスを外し、服に手をかけた瞬間、背後から強く抱きしめられる。
「夏希……」
逃げ場を塞ぐような腕。
息が詰まり、体が反射的に固まった。
唇が触れ、もう一度重ねられそうになったところで、夏希は小さく身をよじった。
「待って……今日は疲れてて。先にお風呂、入りたい」
言葉はちゃんと口にしたはずだった。
けれど冬馬は一瞬ためらっただけで、何も言わずに腕をほどき、ベッドへ向かった。
浴室にこもり、湯船に身を沈める。
お湯の温度が、じわじわと皮膚に染みてくる。
ぼんやりと目を閉じると、浮かんできたのは赤澤の顔だった。
「またご飯行かん?」
あれは、社交辞令だったのか、それとも。
「みんなで」と濁した自分の返事も、今さらのように胸に引っかかる。
赤澤のことを考えると、心臓が少しだけ早く打つ。
彼氏の家にいて、こんなことを考えている自分が嫌なのに、思考は止まらなかった。
髪を乾かし、ベッドに入る。
布団に入った瞬間、後ろから体温が重なった。
冬馬の腕が、迷いなく回ってくる。
「……冬馬」
返事の代わりに、首元に吐息が落ちる。
服の上から触れられ、身体が強張るのが自分でも分かった。
「だめ?」
問いかけの形をしているのに、選択肢はない声。
「今日は……」
言い切る前に、うなじに唇が触れ、耳元で低く囁かれる。
「お願い」
懇願するようでいて、離す気はない。
夏希の身体だけが、強引に引き寄せられていく。
拒みきれず、夏希は言葉を失ったまま身を任せた。
どこかで、自分の感情が置き去りにされていく感覚があった。
抱かれている間も、頭の奥には別の人の影が残っている。
それに気づくたび、胸の内側が冷えていった。
その夜の冬馬は、いつもより執拗だった。
夏希の反応など気に留めていないようで、自分の欲だけを確かめるように、何度も求めてくる。
「待って……」
何度口にしても、届かない。
やがて、冬馬は満足したのか、夏希から離れるとすぐに眠りに落ちた。
規則正しい寝息が聞こえる中、夏希はしばらく動けずにいた。
心も体も、どこか切り離されたまま。
そのまま、意識が沈んでいった。