もう分別のある 大人ですから
週末、夏希は気を引き締めて冬馬の家へ向かった。
玄関のドアを開けた瞬間から、空気が少し重い。声のトーンも、視線の置きどころも、どこかぎこちない。
今日の機嫌を伺うように、他愛ない会話を続けてみる。
けれど、返事は短く、笑顔も続かない。何かを飲み込んでいるのが、はっきりと分かった。
――聞いたほうがいい。
――でも、聞きたくない。
不満を聞き出す勇気も、それを受け止める気力も、今の夏希にはなかった。
だから、あえて触れない。嵐が過ぎるのを待つように。
何も言われないまま、時計の針は二十三時を回った。
冬馬は先にベッドに横になっている。
夏希は電気を消し、そっと布団に入った。
その瞬間、身体が引き寄せられる。
「どうしたの?」
優しく問いかけたけど、返事はなかった。
何か言いたげな沈黙のあと、言葉の代わりに唇が重なる。拒む間もなく、流れは止まらなかった。
服が少しずつ外され、何度もキスをされる。
撫でられる感触に、心が置き去りになる。
しばらくして、冬馬の動きが落ち着き、低い声で話し始めた。
「この前さ……俺の友達から聞いたんだけど、月曜に、男と二人で飲みに行ってた?」
仰向けのまま、夏希は横目で冬馬を見る。
「……うん、行ったよ」
戸惑いながらも、嘘はつかなかった。
やましいことはない。そう思うのに、胸の奥に罪悪感が滲む。
「なんで?」
詰めるような口調に、喉がひくりと鳴る。
起き上がろうとした瞬間、両手を押さえつけられ、身動きが取れなくなった。
怖い。
でも、ここで目を逸らしたら、もっと悪くなる気がして。
「冬馬の気を悪くしたならごめん。ただの同級生で、そういうのじゃないから」
「夏希はそうでも、向こうは違うかもしれないだろ」
拗ねたようでいて、逃がさない声音。
「最近入ってきた人で……偶然会って、ご飯食べただけ。すぐ解散したし、本当に何もない」
説明しても、冬馬の表情は変わらない。
「なんで黙ってた? 言ってくれればよかったじゃん」
「隠すつもりはなかったの。ただの友達だから……」
言葉が終わらないうちに、手の力が強まる。
息が浅くなる。
「友達ね。じゃあ、彼氏いるってちゃんと言った?」
逃げ場がない。
獲物を前にした視線に、背筋が凍る。
首を横に振ると、すぐに唇が塞がれた。
逃げる余地は与えられない。
「お前の彼氏は、俺だから」
低く言い切られ、胸に力が加えられる。
冬馬は感情ごとぶつけてくるようで、止まる気配がなかった。
快楽は感じない。
ただ、終わりを待つだけ。
途中で何度も、名前を呼ばされる。
「冬馬……」
「もっと、もっと呼んで」
「冬馬っ、、とうまっ、冬馬」
声が震えるたび、冬馬は満足そうに囁く。
「夏希、、好きだよっ、、愛してるっ、夏希」
息遣いがお互いに早くなってきて、吐息混じりの声で、好きだの愛してるだの陳腐な言葉が重ねられていく。
それは愛情というより、確認の言葉だった。
自分のものだと、言い聞かせるための。
長い時間、逃げられないまま抱かれ続け、
やがて冬馬は疲れ切ったように眠りに落ちた。
夏希は動けないまま、天井を見つめる。
カーテンの隙間から、空が少しずつ白んでいく。
夜が、終わろうとしていた。
2人の間には心のつながりではなく、カラダのつながりでしかなかった。
玄関のドアを開けた瞬間から、空気が少し重い。声のトーンも、視線の置きどころも、どこかぎこちない。
今日の機嫌を伺うように、他愛ない会話を続けてみる。
けれど、返事は短く、笑顔も続かない。何かを飲み込んでいるのが、はっきりと分かった。
――聞いたほうがいい。
――でも、聞きたくない。
不満を聞き出す勇気も、それを受け止める気力も、今の夏希にはなかった。
だから、あえて触れない。嵐が過ぎるのを待つように。
何も言われないまま、時計の針は二十三時を回った。
冬馬は先にベッドに横になっている。
夏希は電気を消し、そっと布団に入った。
その瞬間、身体が引き寄せられる。
「どうしたの?」
優しく問いかけたけど、返事はなかった。
何か言いたげな沈黙のあと、言葉の代わりに唇が重なる。拒む間もなく、流れは止まらなかった。
服が少しずつ外され、何度もキスをされる。
撫でられる感触に、心が置き去りになる。
しばらくして、冬馬の動きが落ち着き、低い声で話し始めた。
「この前さ……俺の友達から聞いたんだけど、月曜に、男と二人で飲みに行ってた?」
仰向けのまま、夏希は横目で冬馬を見る。
「……うん、行ったよ」
戸惑いながらも、嘘はつかなかった。
やましいことはない。そう思うのに、胸の奥に罪悪感が滲む。
「なんで?」
詰めるような口調に、喉がひくりと鳴る。
起き上がろうとした瞬間、両手を押さえつけられ、身動きが取れなくなった。
怖い。
でも、ここで目を逸らしたら、もっと悪くなる気がして。
「冬馬の気を悪くしたならごめん。ただの同級生で、そういうのじゃないから」
「夏希はそうでも、向こうは違うかもしれないだろ」
拗ねたようでいて、逃がさない声音。
「最近入ってきた人で……偶然会って、ご飯食べただけ。すぐ解散したし、本当に何もない」
説明しても、冬馬の表情は変わらない。
「なんで黙ってた? 言ってくれればよかったじゃん」
「隠すつもりはなかったの。ただの友達だから……」
言葉が終わらないうちに、手の力が強まる。
息が浅くなる。
「友達ね。じゃあ、彼氏いるってちゃんと言った?」
逃げ場がない。
獲物を前にした視線に、背筋が凍る。
首を横に振ると、すぐに唇が塞がれた。
逃げる余地は与えられない。
「お前の彼氏は、俺だから」
低く言い切られ、胸に力が加えられる。
冬馬は感情ごとぶつけてくるようで、止まる気配がなかった。
快楽は感じない。
ただ、終わりを待つだけ。
途中で何度も、名前を呼ばされる。
「冬馬……」
「もっと、もっと呼んで」
「冬馬っ、、とうまっ、冬馬」
声が震えるたび、冬馬は満足そうに囁く。
「夏希、、好きだよっ、、愛してるっ、夏希」
息遣いがお互いに早くなってきて、吐息混じりの声で、好きだの愛してるだの陳腐な言葉が重ねられていく。
それは愛情というより、確認の言葉だった。
自分のものだと、言い聞かせるための。
長い時間、逃げられないまま抱かれ続け、
やがて冬馬は疲れ切ったように眠りに落ちた。
夏希は動けないまま、天井を見つめる。
カーテンの隙間から、空が少しずつ白んでいく。
夜が、終わろうとしていた。
2人の間には心のつながりではなく、カラダのつながりでしかなかった。