Secret love.
「ていうか、私もう帰るんだけど。」

「冷たい彼女だなあ。少しくらい彼氏の疲れを癒そうって気はないの。」

「ここ会社ですし、今の私は及川くんの彼女ではなくただの経理課勤めの社員です。」

「どうしたら戻ってきてくれんのかな、俺の彼女さんは。」


そう言って私の方に少し身体の距離を近付けて、顔を近くで合わせ、キスしそうな距離感だった。驚いて何も反応出来ず固まっていると、及川くんは少し笑って「仕事モード抜けた?」と問い掛けてくる。


「…人来たらどうすんの。」

「人来ても分かる場所に行けばいいんじゃない?」

「違います。さっさと仕事終わらせて及川くんが家に帰ってくればいいです。」

「無理言うなよ。」


そう言って笑うと私の手首を掴んでそのままどこかに引っ張られる。自動販売機に連れて行かれて飲み物を購入したら気が済んだのか、違う場所に連れて行かれそうになっている。

もう帰るだけなのにどうしてこの人にこんなに振り回されるのか。


「ちょっと!」

「静かにしろって。目立ちたいの?」

「及川くんに言われたくない!」


人が居ないのを確認して、普段誰も入らない物置になっている部屋に入って、鍵を閉めるとそのまま壁に追いやられ、壁に及川くんが両肘をついて私を閉じ込めてくる。顔の距離が近くて驚いていると、私の顔を楽しそうに見ながら及川くんは笑っていた。
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