Secret love.
営業部のオフィスに顔を出すと中には1人残っている及川くんが居た。オフィス内の電気は一か所しか点灯しておらず暗い。

気付かれない様にこっそり後ろから近付くと、差し入れのコーヒーを頬にゆっくり当てると驚いてビクッと身体を揺らし、こちらに向く。


「な、にしてんの、優花。」

「差し入れ。お疲れ様。」


頬に当てていたコーヒーを手に取ると「ありがとう」と言って受け取る。


「てか、これ俺のパーカーじゃない?」


意外と早く気付いた及川くんに思わず笑ってしまう。私が着てきた上着に触れると、軽く引っ張っている。ソファーに置きっぱなしにされていたパーカーをそのまま掴んで被ってきただけだけど、及川くんは何で?という顔をしながらも少し嬉しそうなのが可愛い。

この人は私が自分の服を着ている姿を見ているのが好きなのだと思う。誰も居ないって分かっているから、少し大胆な事をしてきたのだけど、誰かいたらこのまま及川くんに会えずに帰る所だったから無駄に終わらなくてよかった。


「好きでしょ?及川くんのパーカー着てる私。」

「好きだけど、誰かに見られたらどうすんの」

「普段ルール違反の常習犯が文句言う?」

「違う。この姿は俺だけのでしょ。これで外出てくるとか正気?」


怒っている所はリスクがある行動をしたことよりも、この姿を人に見られたのが問題らしい。嫉妬なんて珍しい。
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