Secret love.
「誰も見てないよ。」

「これ着てコンビニ行ったくせに。店員には見られてんじゃん。」

「店員さんは女性でした~」

「ああ言えばこう言うな。」


私の身体を抱き寄せるとそのまま抱き着いてきた。その頭を優しく撫でてあげる。


「…珍しく参ってるね。」

「疲れた。早く帰りたい。」

「お疲れ様。」


及川くんはきっと受付が失礼をしたから仕事が長引いたとかそう言う話をしない。私がここで聞き出しても自分の仕事が遅かっただけなんて言って弱音を吐きもしない。

誰かのせいと言える発言や、悪口に聞こえてしまう言葉を吐くのが好きじゃない人だから、少しくらい話聞いてすっきりさせてあげたいと思っても、及川くんはそれをしない。

今こうしてくっついている時間がきっと及川くんの中で出来る最大の甘え方なのだと思う。だから、私は黙って受け止めるだけ。


「てか、何で来たの。夜遅いのに、危ないでしょ。」

「実季から仕事終わらなくて泣いてる情けない男がいるって聞いたから来てあげた。」

「絶対そんな言い方してないじゃんそれ。…新田さん話したんでしょ。」

「ううん。何も?大変そうだったしか聞いてない。」

「嘘吐け。」


嘘は言っていないのに全然信じてくれない及川くんに少し笑って頭を撫で続ける。
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