Secret love.
そうこう話している間に社長が乾杯の音頭を取って、宴会がスタートする。


「よし、戦争に行ってくる。」

「先輩の刺身のエビ全部食っていいですか。」

「やめて!刺身は私の楽しみ!」


そう言いながら瓶ビールを持って経理課の上司達の元をまわってお酌をした。当然程々には飲まされたけれど、この後温泉に行く人も多いからかお酒がいつもより控えめだった。

近くには滝が見れるスポットもあって、そこに行く人も大勢いるそう。途中かなり酒飲みと温泉組と滝観光組で旅館の中で移動しやすくなることを把握した。

チラッと及川くんの方を見ると課長の隣に座っていて楽しそうに笑っている。そして浴衣姿は言うまでも無く色気があって、その近くにお酌している女性社員の姿も当然ある。

見ていると腸が煮えくり返りそうになるので見ない様に目線を逸らして、早々に太一の隣に戻った。


「おかえりなさい。」

「ただいま。疲れたー。太一私にビール注いでよ。」

「パワハラですか?」

「ってなるよね。分かる。もう女がお酌してまわる時代終わってるはずなんだけどな。」

「はは、もうこんな所で愚痴溢すくらい酔ってるんですか?」

「全然酔ってないっての。」


たかが小さなグラスで2杯程飲まされた程度では酔わない。私もそれなりに強くはなくとも飲める。

太一が疲れている私を見て黙ってグラスに瓶ビールを注いでくれた。なんだかんだ言いながら労わってくれる所が太一の可愛い所だ。


「優しいじゃん。ありがとう。」

「いえ、後で金取るんで。」

「うわ、卑し。」


そう笑いながらビールを一気に喉奥に流し込む。
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