Excessive love.
「実季、困ったら本当に頼ってよね。悪いとか思わなくて良いから」


 優花が心配そうな表情でそう言ってくれるのを聞いて、私は少し微笑み返して「ありがとう」とお礼を言う。頼れる場所があると思うだけで随分心強い。


「そろそろ戻らなきゃね。戻りたくないけど」

「私も。今は同じ部署であの男の顔見る度に腹が立つ」

「良いから、及川くんとのデートに備えなよ」

「…何に対して備えたら良いのさ」


 そう言いながらも、頬を林檎のように染めて、どこか嬉しそうにしている優花。

 四年という月日が経ち、結婚の気配が見えないことに悩み、一度は別れまで考えた彼女だけれど、今の顔を見ればわかる。彼女はまだ、及川くんを心底愛している。だから、今回のことも、きっと大丈夫。

 ツンとしていても、ふとした瞬間に零れ落ちる女の子らしい愛らしさが羨ましいなと思う。同時に、私に決定的に欠けているのは、こういう無垢な可愛げだと思った。


「じゃあ、またね。優花」

「またね」


 経理課へと向かう彼女と別れ、私は再び営業課のあるフロアを目指す。

 一歩、足を踏み出すごとに鉛が体に溜まっていくような重さ。本音を言えば、このまま逃げ出したい。

 重い足取りで廊下を歩いていると、不意に背後から「新田」声をかけられた。

 振り返ると、そこにいたのは朝倉課長だった。
 朝の時よりも少しだけ、固く真剣な表情。


「ちょっと、話良い?」

「あ…、はい」


 急に呼び出される事が珍しかったけれど、先を歩いていく課長の後ろを黙って着いて行った。
< 12 / 142 >

この作品をシェア

pagetop