Excessive love.
「…お疲れ様です。どうかなさいましたか?」

『お疲れ様。まだかかりそう?』

「…あ、…はい。今日はまだかかりそうで、遅くなるので私の帰りは待たなくても大丈夫です」

『そんなわけにはいかないだろ。…声、疲れてるな。今日様子変だったし何かあった?』


 今は、そんなふうに優しくしないでほしい。
 せっかく固めた決意が、崩れてしまいそうになる。

 受話器越しに届く彼の声を聞いているだけで目頭が熱くなり、私は必死に奥歯を噛み締めて涙を堪えた。


「…いえ、何でも無いです。ちょっとボーっとしちゃって…」

『何を考えてる?』

「───…っ」


 見透かされたくないのに、すでに見透かされている様な、そんな感覚。私の考えていることなんて、彼に勘づかれるわけにはいかないのに。


『…明日、一緒に早く出社して終わらせよう、その業務は。だから、今日はもう業務を終了させて』

「…ごめんなさい、帰れません」

『どういう意味? 終電が心配なら迎えに行くけど』

「違うんです…! そうじゃなくて…、もうその家に戻れないんです」


 私の唐突な言葉をすぐには受け入れられなかったのか、受話器の向こうで直樹さんの言葉が途切れた。その重苦しい沈黙の隙間に、私は自分を追い込むように言葉を重ねる。


「…帰りたくないんです」


 終わりにするなら、早いほうがいい。

 これ以上、彼の声を聞き続けてしまったら、思わず本音が漏れてしまいそうだったから。
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