Excessive love.
「良かったら、落ち着くまで俺の家に来ない?」

「…え?」


 課長の口から飛び出したのは、あまりに予想外すぎる提案だった。

 あまりの衝撃に、思考が完全に停止する。

 今、私は何を言われた?

 言葉の意味が脳内で結びつかず、ただ呆然と課長を見つめることしかできなかった。

 私のあまりに間抜けな顔を見て、課長は「あっ」と声を上げ、みるみるうちに耳の付け根まで真っ赤に染めていった。あの落ち着いた課長が、見たこともないほど慌てふためいている。


「ちが…、これ、セクハラに当たんないよな…?」


 口元を押さえて焦っているその姿に、張り詰めていた緊張が不意に緩み、私は思わず小さく笑ってしまった。


「ごめん。違うくて…、これだけ恥を晒した後に更に恥ずかしいお願いでもあるんだけど、これは俺の為の提案でもあって…」

「課長の為…、ですか…?」

「実は凄く家事が苦手で定期的にハウスキーパーさんに来てもらってて、俺一人じゃ生活がそもそも出来なくて…。新田は家事得意だったりする?」

「あ…、いや、ハウスキーパーさんの話を聞くとそこまででは無いですけど、問題なく生活ができる分には…」

「だったら、いる間家賃とか生活費はいらないから余裕がある時に家の掃除とかを少し手伝ってもらえるとありがたいんだけど、どうかな?」

「いや…、えっと…」


 これ以上ないほど有難い条件だった。ホテル暮らしの出費は馬鹿にならないし、家賃が浮くのは今の私にとって救い以外の何物でもない。

 だけど、相手は直属の上司。もしこれが、及川くんと同棲していない時の優花からの提案だったなら、迷わず飛びついていたと思う。

 尊敬する課長にこれ以上甘えるのは申し訳ない。それに、どれほど信頼しているとはいえ、相手は異性だし。

 理性と現実的なメリットの間で、私の心は激しく揺れ動いていた。
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