Excessive love.
「変な感じだな。自分がまさか料理しているなんて」

「今までは外食が多かったんですか?」

「そうだな。時々デリバリーしたり…、後接待も多かったりして自分で作る必要性は今まで感じなかったけど、最近はちゃんとした方が良いんだなって考えが変わってきた」


 確かに今は便利な世の中だし、料理ができなくても生きてはいける。

 ましてや、ここにはハウスキーパーを雇い、安住さんが時々作り置きに来てくれていたのだから、尚更必要がなかったと思う。

 それでも、私の手料理を食べて身体の調子がいいと喜んでもらえるのは、素直に誇らしくて、嬉しい。


「これから生徒が飛び立つ前に料理の先生に先にいなくなられたら困るから、まだいなくなるなよな」

「え?」


 朝倉さんの言葉に思わず聞き返すと、彼は変わらず手元のジャガイモに視線を落としていた。

 伏せられた睫毛でその表情は読めず、何を考えているのか分からない。


「急いで家を探す必要がないって言いたかった」


 朝倉さんの静かな声に、どう返事をしたらいいか分からなくなった。

 これまでの人生で、こんな風に誰かに優しく、ただそのままの私を受け入れてもらえることなんてあったか。

 私はいつもしっかりした人だと思われ、男性に甘えられることが多かった。

 それを受け入れているうちに、今度は頼られたいのに全く頼ってくれない、可愛げのない女と言われ、いつも離れていかれる。

 そんなことの繰り返しで、こういう時にどう甘えたらいいのかわからなくなっていた。

 そう考えこんでいると、朝倉さんがこちらを見る。


「難しく考えないで。新田がすぐにでも出たいならそれは止められないけど、俺はむしろ居てくれた方が助かっているから、新田がここに居るのは俺の為にもなるって思ってくれたら…、って、これはこれで気が重いか…。

とにかく、助かってるから俺に迷惑が掛かるとか思わなくていい」


 朝倉さんらしい、不器用ながらも真っ直ぐな言葉。
 甘え下手な私、そっと解かすような言い方。
 そのすべてが、温かくて、嬉しかった。


「…ありがとうございます。じゃあ、朝倉さんの料理が上達するまで、お世話になります」

「助かる」


 そう言って柔らかく笑みを零すと、彼はまた真剣な顔で作業に戻った。
< 45 / 142 >

この作品をシェア

pagetop