離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
上司の裏切り
「……美味しい」
珀人さんが仕事から帰ってきた夜。
ダイニングの椅子につき、グラスに入ったレモネードをストローでおそるおそる飲んだ私は、まったく吐き気を覚えずに飲み込めたことに驚いていた。
水でさえ飲むのがつらい時もあるのに、珀人さんの手作りレモネードはそのまま一気に一杯飲みきってしまった。
キッチンから私の様子を見守っていた珀人さんが、にこにこしながら追加のレモネードシロップをガラスの保存瓶に作っている。
「よかった。皮に農薬や防カビ剤を使っていない安全な国産レモンを探すのに、あちこちのスーパーを回った甲斐がある」
「お忙しいのにありがとうございます」
「ところで悠花、明日からの会社はどうする?」
「もちろん行きます。昼間は比較的元気ですし、仕事をしている方が吐き気も落ち着くので」
「……無理はするなよ。俺は明日接待で遅くなるし、その翌日からは出張だ。なにかあってもすぐに駆けつけられないかもしれない」
「はいっ。十分気をつけて過ごします」
レモネード効果で元気になったのもあるけれど、彼が私を信じて背中を押してくれるようになったのが本当にうれしくて、明るく返事をした。