離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「歩けそう? タクシーも到着したみたいだから、会社に戻ろうか」
「はい……」
真木さんに支えられ。蕎麦屋を後にする。店の前には確かにタクシーが停まっていて、真木さんは運転手にスマホを見せ、「ここの住所まで」と行き先を伝えていた。
呼吸こそ落ち着いたものの、今度はタクシーの車内に染みついた独特の匂いで気分が悪くなってくる。
車の振動がまるで船に乗っている時の激しい揺れに感じられ、たまらず、先ほども使ったハンカチを顔の下半分にあてる。
「つらそうだな。着くまで目を閉じていていいから」
「すみません……」
「いや、俺の方こそ外に連れ出して悪かったね」
彼の優しい言葉はまったく信用ならないが、今は言われた通り会社に着くまで体を休めているしかなさそうだ。
私は固く目を閉じ、食あたりと船酔いに目眩まで加わったような最悪の症状をなんとか騙そうと必死になった。
「財前さん、降りられる?」
「はい……」
タクシーが停車すると、真木さんに手を借りて、車の外へ出る。
ずっと目を閉じて座っていただけなのに、ひどい倦怠感を覚えている。
最近調子がよかったからと、悪阻を甘く見ていたかもしれない。精神的に不安定になるだけで、こんなにも症状が強くなるなんて……。