離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

 そう思いながら、ずっと薄くしか開けられていなかったまぶたを開く。

 周囲に広がっていた光景は私が想像していたものと違って、思わず「えっ……?」と声が出た。

 正面にあるのは見慣れた自宅の門扉。私は自宅の前でタクシーから降ろされたらしい。どうして……?

「会社に、戻るんじゃ……」
「こんな体じゃ、戻ったところで仕事なんかきないだろう。お節介だとは思ったけど、家まで送らせてもらったよ」

 真木さんの笑顔はいつも通りだが、ドクン、と重たい音を立てて心臓が揺れる。これまでいい上司だと信じて疑わなかった彼の言葉が、今は不気味に感じて仕方がない。

 理屈としては筋が通っているように思うけれど、どうして車から降りたタイミングでそれを言うのだろう。

「気を遣わせてしまってすみません……。それでは、ここで失礼します」
「くれぐれもお大事にね。明日以降も体調の様子を見て、無理に出勤しなくていいから」

 出勤しなくていいと言われて、これほどホッとしたのは初めてかもしれない。あんなにあったはずの仕事への意欲が、今は驚くほどに低下してしまっていた。

 真木さんにぺこりと頭を下げ、門の中へと入る。重い足取りで玄関へ向かいつつ、珀人さんにメッセージを打った。

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