離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「すみません、お見送りができそうになくて」
「そんなこと気にしないで、お大事になさってね。そうだ、玄関の鍵って……」
鞠絵さんに尋ねられ、そういえば閉めるのを忘れていたなと思う。外の門扉も、彼女が来た時からロックを外したままだ。
「開いているので、そのままお帰りください……」
「そう、ありがとう。……でも、今後は気を付けた方がいいわよ。不用心だから」
最後にそんな忠告を残し、鞠絵さんが寝室を去る。去り際の彼女に「そうします」と返事をしたものの、私は玄関へは向かわずベッドに倒れ込んだ。
戸締りなんてどうだっていい。とにかく横になっていたい……。
それから何分も経たないうちに、カチャ、とドアが開く音がした。
鞠絵さん? どうして戻ってきたんだろう――。
薄目でドアの方向にぼんやり注目したその時、目に入った人物の姿は、彼女ではなかった。
「しかしすごい家だね……。俺たち下々の社員のことは締め付けておいて、自分はこんな豪邸で悠々暮らしているとは」
興味深そうにインテリアを見回し、じりじりとベッドに歩み寄ってくるその人は、数十分前に家の外で別れたはずの上司だった。
どうして、彼がここに?