離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

 ここまで言うからには、さすがに嘘ということはないだろう。

 夫婦の寝室を見せることに躊躇いはあったけれど、珀人さんが仕事で使うものは彼の仕事机が置かれているこの部屋にある可能性が高い。

「夫がパソコンを開いたり読書をしたりする机があちらにあって」
「失礼して拝見しますね」

 鞠絵さんが机の周りを物色し始めたタイミングで、私はポケットからスマホを出した。

【鞠絵さんが珀人さんの忘れ物を取りにいらしています。お仕事中かと思いますが、念のためご報告まで】

 お使いを頼んだのが本当に珀人さんならなにも不思議じゃないメッセージだし、そうでないのなら違和感を覚えるはず……。

 送信が済むと、鞠絵さんの作業を手伝うために私も机の方へ近づく。

「ありませんか?」
「ええ、おかしいわね」

 ふたりで机の周りを捜索すること数分。お客さんが家にいる緊張感でなんとか治まっていた吐き気や倦怠感が、再び現れ始める。

 思わずその場にうずくまると、すぐに鞠絵さんが気づいて背中に手を添える。

「悠花さん、どうされたの?」
「すみません、今日は元々体調がよくなくて……」
「まぁ。そんな時に押しかけてしまってごめんなさい。こんなに探しても書類がないということは、自宅に忘れたというのは社長の勘違いかもしれないし、私はそろそろお暇するわ」

 あっさり書類捜しをあきらめたのは少し意外だった。それでも、ホッとした気持ちの方が強い。

 正直、今は誰かと話しているだけでも苦痛だったから……。

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