離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

「悠花は?」
「え?」
「俺はビールにするけど、一緒に飲むか?」
「飲みます……!」

 思いのほか力んだ声が出てしまった。珀人さんが私の飲み物を用意してくれるなんて、結婚してから初めてではないだろうか。

 ただの気まぐれだとは思うけど……。

 冷蔵庫に常備してあった缶ビールを手にテーブルに戻ってきた彼が、ふたつのグラスにそれぞれ注いでくれる。お酌すべきかと悩んでいる暇もなかった。

「ありがとうございます」
「……こちらこそ。いただきます」

 こちらこそ……?

 そんな言葉も初めて聞いた。『こちらこそありがとう』って意味だよね。

 夕食に感謝してくれているってこと、かな。

 フォークとナイフを手にしながら、さりげなく珀人さんの表情を窺う。彼はいつも通り不愛想なままだ。

 私たちは、食事中も必要最低限の会話しかしない。今日は真木さんに指摘されたせいか、こうした夫婦関係の溝に思いを馳せることが多く、切なさがいっそう身に染みる。

「そういえば、今日職場に新しい上司の方が異動してきたんですよ。真木さんっていうんですけど」

 今日も空振りに終わるだろうなとは思いつつ、こちらから会話を振ってみる。

「真木……?」

 珀人さんがぴくっと眉を震わせ、反応を示した。

 こんなに手ごたえあるのも珍しい。内心驚きながら、ビールをひと口飲む。

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