離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する


 今の『ああ』は食べるってことよね……?

 わかりにくい返事なのはいつものことだが、今日はどうも落ち込みやすい。

 好きな人とひとつ屋根の下で暮らすこと、約一年。

 簡単に愛が芽生えるとは思っていなかったけれど、それでも家族としての親愛の情は自然と生まれるだろうと考えていた私が単純すぎたのだろうか。……珀人さんの態度は、今でもまるで使用人に向けるそれだ。

 このまま仮面夫婦を演じ続けていて、私の心は持つのだろうか。

 ここ最近、何度となく自分に投げかけている質問が、頭の中をぐるぐると回る。

 ほどなくして、ワイシャツにスラックスだけという少しリラックスした姿の彼がダイニングに戻ってくる。

 私はハッと我に返り、彼に席を勧めた。

「飲み物はなにがいいですか?  ビールも冷えていますし、いただきもののワインも――」
「自分でやる。悠花は座って」
「は、はい……」

 余計なお節介だった、かな……。

 実は、夫婦一緒に食事できるのは久しぶり。珀人さんはこのところ会食続きだったので、少し豪華な夕食を張り切って作った。

 主菜は朝から解凍していたラムチョップを塩コショウとにんにく、ローズマリーと一緒に焼いて盛りつけた一品。

 テーブルには他に、グリーンサラダとひよこ豆のスープ、トースターでこんがり焼いた丸パンも並んでいる。

< 15 / 183 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop