離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「はい。真木……誠也さんだったかな。総務から来た方ですけど、その前は珀人さんのところで企画系のお仕事の経験もあるとかで、頼りになりそうな方です」
「そうか」
返って来たのは相槌のみ。
もう少しなにかないのかと少し不満に思い、グラスのビールを一気に呷る。
アルコールが効いてくると、昼間からくすぶらせていた夫婦生活の不満までが心の表面に引き上げられてくる。
やっぱり彼は、私に興味も関心もない。珀人さんがそんな風だから、会社の人の前で結婚生活について話す時、私はひとりで切なくなってしまうのだ。
夫の立場を悪くしないよう懸命に取り繕っているこっちの気も知らないで……。
「その真木さんに、私たち夫婦がうまくいっていないんじゃないかって、心配されちゃいました」
スープを飲むために伏せられていた珀人さんの目が、怪訝そうに私を捉える。妻が外で自分について悪く言ったのかと疑っているのかもしれない。
そんな顔をするなら、最初から悪く言われないように振る舞えばいいのに。
でも、そういう本音を一年間誰にも言わず、この胸に閉じ込めていた私が一番悪いのかな。