離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
彼女はなにを言っているのだろう。
「え……?」
結局持ち上げただけで口をつけなかったカップをテーブルに戻し、鞠絵さんに怪訝な眼差しを向ける。
「彼があなたを愛しているのはわかっているわ。でも、だからといって一度も間違いを犯さなかったと断言できる? 前に話したと思うけれど、社長……財前くんがとても疲れている時期があってね。ほんの出来心で、一度だけ。奇跡って本当にあるのね」
鞠絵さんは苦笑して、ココアラテのカップに口をつける。
以前の私なら、彼女の話を信じ込むことはないにしろ、動揺はさせられたと思う。
仕事上のパートナーであったふたりが、何かの間違いで一線を超えた可能性もなくはないと、勝手に色々妄想して不安に襲われていたかもしれない。
でも、今は違う。彼と鞠絵さんさんのどちらを信じるべきかなんて、考えるまでもない。
「珀人さんはそんなことをしません」
きっぱり言って、鞠絵さんを見つめる。それまで微笑みを浮かべていた彼女が、ぴくりと眉を震わせて不穏な空気を纏い始める。