離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「私たちは同じ家で暮らしているパートナーなんですから、お互いの気持ちを尊重し合うのは、最低限のルールだと思いませんか? なのに、一方的に仕事を辞めろだなんて……形だけの妻に愛情が持てないのは仕方ないとしても、あまりに横暴です」
別れずに再構築する道もあるのではと考えなかったわけではない。
でも、仕事をやめるよう勧められたことで、そんな気持ちはぽっきりと折れてしまった。
「待て。愛情が持てないなんて誰が言った?」
「言わなくたってわかりますよ」
「どうしてだ」
「だって……珀人さん、一度も私を抱いてくれないじゃないですか……っ」
どうせ最後なのだから、恥じらいなんていらない。
私は結婚生活の中でずっと抑圧されていた感情を爆発させ、涙ながらに訴えた。
珀人さんは虚を突かれたように目を瞬いて、私を見つめる。それからおそるおそる、私の体を引き寄せて、背中に腕を回した。
単に泣きやませたいが故の行動に違いないのに、鼓動が高鳴ってしまう。
今は憎い夫でも、十代の頃から想っていた相手だ。体も心も混乱して、不具合を起こしているのだろう。
「……だったら」
ふいに、珀人さんが低い声で呟く。背中にあった彼の両手がゆっくり頬に移動して、自分を見ろと言わんばかりにぐっと上を向かされる。
珀人さんの真剣な眼差しが、まっすぐ私を射貫いた。