離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
高校の時からずっと憧れていた人の本能的な姿を目にして、苦しいくらいに心臓が暴れる。
いつかは珀人さんとこうして抱き合いたいと、ずっと思っていたから……気持ちがないのに私を抱こうとしている彼を、どうしても憎みきれない。
「……今日はきみを泣かせてばかりだな」
そんな言葉と共にスッと目元に伸ばされた指先が、目尻に触れる。
自分でも気づかないうちに涙を浮かべていたらしい。
「きみが怖いなら、やめよう」
「……いや。やめないで」
「意地になっているのか?」
「意地になってなんかいません。私はただ……珀人さんに、愛されたいだけです」
恥ずかしい姿をたくさん見られたせいだろうか。もうなにも隠す必要がなくなった気がして、切実な心の内がするすると口からこぼれた。
彼は切れ長の目を大きく見開き、それから苦しげに眉根を寄せた。
「……すまない」
短いそのひと言が、彼の答えなのだろう。どう頑張っても私のことは愛せないと言われた気がして、胸に鈍い痛みが走る。
「謝らないでください。人の気持ちはそう簡単に動かせるものでは――」
「違う。きみに誤解させたことを謝っている」
「誤解……?」
「俺は、きみに逃げられたくない一心だった。……しかし、取るべき行動が間違っていた」
珀人さんはそう言って、自分だけ納得したような顔をしている。
なにが誤解だったというのだろう。彼の言葉だけでは真意を察することができずにもどかしい。