離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

 朝になったら珀人さんはすでに出勤後でいなかった。ベッドサイドに置かれたテーブルの上でスマホのアラームが鳴ったはずなのに、熟睡しすぎて起きられなかったらしい。いつもより三十分も遅い目覚めだった。

 昨夜の回想をしている暇もなく身支度をして、自宅を飛び出す。

「お、おはようございます……!」

 始業時間ぎりぎりに会社に到着した。

 挨拶をして席に着くと、すかさず近づいてきた葵ちゃんが内緒話をするように身を寄せてくる。

「悠花さんがこんなに遅いの珍しいですね。もしかして、旦那様が寝かせてくれなかったとか?」
「な、なに言ってるの……。そんなわけないでしょ」

 ぎくりとしながらも、笑ってごまかした。葵ちゃんは微笑ましそうにクスクス笑っている。

「照れなくていいですよ。夫婦なんだから普通じゃないですか」

 そうか、世間一般の夫婦にとってはあたり前なのか……。

 返答を間違えたかと一瞬悩んだものの、葵ちゃんに気にしたそぶりはなく、自分の席に戻っていく。

 本気で興味があったというよりは、先輩をからかいたかっただけのようだ。

 気を取り直して席につき、パソコンを開く。昨日残業してまとめた企画書を真木さんに見てもらおうとプリントアウトし、彼のデスクを見やった。

 席に座ってこそいなかったが、すぐそばの窓辺に立って外を眺めている。

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