離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
立ち上がって近づいていくと、湯気の立つマグカップに口をつけていた彼が私の気配に気づいて振り向いた。
「真木さん、おはようございます」
「ああ、おはよう。書類のチェック?」
振り向いた彼は、こちらが言う前から用件を察してスッと手を出してくれる。
前の課長はいつもせかせかと働く人だったので話しかけるタイミングをはかるのが難しかったから、真木さんのいつでもウェルカムな雰囲気は正直ありがたい。
「はい。新しい学習アプリの企画書です」
「なるほど。冒険しながら一門問題を解くごとに、次のステージに挑戦するための装備品アイテムが手に入る。難易度の高い問題に対しては課金アイテムと同等スペックの別アイテムが報酬になっていて、子どもの学習意欲を掻き立てる……よくできてるとは思うけど」
「なにか気になる点がありましたか?」
真木さんはコーヒーをひと口飲み、もう一度書類をじっくり見てから口を開いた。
「この、同等スペックの別アイテム……というのは、丸ごと同じアイテムじゃダメなの?」
「いえ、ダメというわけじゃありませんが……課金ユーザーを優遇するのが通例ですので、見た目だけでも少し変化をつけられたらと」
「それじゃ、子どもはワクワクしないんじゃないかな」
漠然とした言い方だったけれど、痛いところを突かれた気がした。自分で考えた企画とはいえ、実は私も似たような印象を抱いていたのだ。