離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「今夜の会食ですが、先方の都合で延期になりました。新たな日程候補は後ほど改めて相談したいとご連絡が」
「そうか、わかった」
俺は頷いて、パソコンに向き直る。無意識に手を伸ばしたらまたしてもサンプルの方のマウスに触れそうになり、慌てて本物の方を握り直す。
その仕草に気づいたらしい四季が、心配そうに俺の顔を覗き込む。
「コーヒーでも淹れてきましょうか?」
「いや、大丈夫だ。きみは自分の仕事に戻ってくれ」
「そうですか……。では」
四季は短く一礼して扉の方へ向かおうとしたが、途中でなにかを思い出したように振り返る。
「なにか困ったことがあったら、友人としていつでも相談してね。年下の奥様には弱音を吐けないこともあるだろうから……」
どうやら本気で心配させてしまったらしい。しかし、いくら同級生でもプライベートの問題を秘書に打ち明けるわけにはいかない。
俺が向き合うべきなのは、その〝年下の奥様〟本人だ。
「ありがとう。気持ちだけ受け取っておく」
短くそう告げると、四季は少し寂しそうに笑って社長室から出ていく。
今夜は会食がなくなったことだし、悠花が寝てしまう前に帰れるかもしれない。いや、帰って話そう、絶対に。
俺は軽く椅子に座り直すと、画面上にびっしり並んだ数字の羅列を目で追いながら、今後の経営目標を練り始めた。