離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

 俺の指示で迅速に動いてくれる直属の部署、経営統括部に資料を送ることができたのは午後七時台だった。

 ひと息つく暇も惜しんで忙しなく会社を出る。

 自分の車で通勤することもあるが、役員には専用の送迎車と運転手も用意されているため、今日はそちらを使っていた。

 帰宅する途中、花屋に寄るという目的があったため、あらかじめ調べていた店の前でいったん車を止めてもらう。

 このところ都内のあちこちでよく新しい店舗を見かける、『美吉(みよし)ブロッサム』という店だ。

 車を降りてすぐ、店頭に並ぶ色とりどりの花々を眺める。

 ブリキのバケツに入れられた切り花はどれも綺麗だが、悠花がもらって喜ぶ花がどれなのかがわからない。

 というか、俺はバラなどのメジャーな花以外、名前もよく知らないのだ。

 やはり、餅は餅屋……。

 俺は胸の内でそう呟くと、スマホを取り出して旧友の瀬戸山に電話をかけた。四季と同じく、彼も松苑学園の卒業生だ。

『財前。珍しいなお前が電話してくるなんて』
「……突然悪い。仕事中か?」
『いや、ちょうど帰るところだ。もし時間あるなら久々に飲みにでも行かないか?』

 瀬戸山はのんきな声でそう言うが、こちらはそれどころではない。

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