離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「財前さん、なにか悩み事?」
ゆっくり後片付けをしていたら、いつの間にか会議室に残っているのは私と真木さんだけになっていた。
先ほども上の空を指摘されたばかりなので、恐縮して頭を下げる。
「すみません、ただ注意力散漫だっただけです。オフィスに戻ったらコーヒーでも飲んで気合いを入れ直しますね」
「いいよ、俺の前では無理しなくて。……ご主人のことで悩んでるんでしょ?」
長テーブルに腰を預け、腕組みをした真木さんが気遣うように私を見る。
彼には以前キスマークを指摘されたが、つい最近も見られたくないシーンを見られてしまったので、気まずさがこみ上げる。
あれは、昼休みを使って役所に離婚届を取りに行った日のこと。無事に目的の物を手に入れた後昼食を取るために立ち寄ったカフェで、真木さんと会ったのである。
料理を待つ間、テーブルの上に離婚届を広げてまじまじと見つめている姿を、後から店にやって来た彼に偶然見られてしまった。
『……離婚届?』
その呟きに反応して振り返ると、上司が驚いた顔で立っていたというわけだ。
『本当に離婚するかどうかはまだわかりませんし、夫の名誉のためにも誰にも言わないでいただけますか……?』
慌てた私は必死で真木さんにそう頼み込んだ。彼は『もちろん』と頷く。
『こんなデリケートな問題、そう軽々しく誰かに言ったりしないから安心して。でも、思いつめた顔をしている部下が心配だから、同じテーブルで食事をしてもいい? この件に関しては話せなくても、ひとりで悶々としているよりはいいだろ』
『すみません、ありがとうございます……』