離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

「きみはなんでも瀬戸山の手柄にするのが好きだな」
「だ、だって、珀人さんらしくないというか……」
「俺は妻を褒めない男だと?」
「今まではそうだったじゃないですか」

 すでに離婚を切り出し、離婚届まで用意している極限状況。もう失うものはないので、私は彼の前で言いたいことを飲み込むのをやめていた。

 これまでの結婚生活で我慢してきた分、本音でぶつかりたい。それで壊れてしまうなら、あきらめもつくから……。

「……それについては言い訳しない。だが、これからの俺は違う」

 珀人さんがふいに私の手を取って、ギュッと握る。その力強い感触とあたたかな温もりに、胸がドキンと鳴る。

「約束して、悠花」
「……な、なにをですか?」
「今日のきみはとびきり綺麗だから、俺の手を離してはいけない。他の男によそ見をしてもいけない。ずっと俺だけを見ていること。……いいな?」

 子どもをなだめるみたいに言い聞かせる声は穏やかで、それでいて細められた目は色っぽい。

 その不思議な魅力に取りつかれてしまったかのように、私は気が付けば首を縦に振っていた。

「はい。わかり、ました……」
「じゃあ、そろそろ出よう。今日は一日がかりできみをもてなすって決めているんだ」
「え――」

 
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