離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「あの時、生徒会の中で味方になってくれたのはきみだけだった。それに、投票用紙の筆跡を調べたり、選挙管理委員会の生徒たちから聞き取りをした上で、犯人と思しき生徒を粛々と先生に告発してくれた。本当に、感謝しているんだ」
「だ、だって、珀人さんは不正なんかする人じゃありませんから……」
当時も丁寧にお礼を言ってもらった気がするが、十年近くたった今、改めて学生時代のことにお礼を言われると、なんだか照れくさい。
それに話の流れから考えて、彼は私のその行動で恋に落ちたということになる。
私が片想いしていたのと同時期に、彼も私を想っていてくれたの……? だったらどうして、それを態度に表してくれなかったのだろう。
少なくとも結婚してからの彼に、私への恋心なんて少しも感じられなかった。
「ほら、見えてきた。あそこだ」
彼の言葉を信じきれずに心を揺らしている最中、珀人さんが前方右に見える大きな建物を指さす。悶々としていた気持ちが、ふっとやわらいだ。
当時から近代的だったデザインの校舎は変わっていない。一階と二階がガラス張りで、とても日当たりがよく明るい。
屋上には庭園とプールがあり、広いアリーナや陸上競技場、野球場なども充実している。
スポーツ系の部活動は毎年のようにに全国大会出場校に名を連ねているほか、オーケストラ部や茶道部、華道部など、文化系の部活動が充実しているのも松苑学園の特徴だ。
私も珀人さんも生徒会活動が忙しくて、特定の部活動には所属していなかったけれど。