離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

 午後三時からの会議に向けての資料作成に手間取り、昼休憩に入れたのは一時を過ぎてからだった。社内のビルに入っているカフェで、サンドイッチとコーヒーを前にようやくひと息つく。

 窓に面したカウンター席からぼんやり外を見ていると、エントランスの前で高級車が一台止まる。

 どこのお偉いさんだろうと眺めていたら、中から出てきた人物は、自分の夫だった。

 左右にきっちり分けられた黒髪から、凛々しい切れ長の目が覗いている。高い鼻梁に薄い唇、シャープな顎のラインも、すべてが完璧に整っている極上の美形。

 身長は百八十センチを超えていて、がっしりとした体躯に濃紺のスリーピーススーツがよく似合っている。

 背筋を伸ばしてしなやかに歩く彼の姿はすぐに見えなくなり、今日も忙しそうだな、とぼんやり思う。

 夫の珀人さんは、ZアドバンスをはじめとするIT関連のグループ企業を束ねる『財前ホールディングス』の代表取締役社長。

 元々は彼の曽祖父が、インターネットが一般的になる九十年代より前からその利便性に商機を見出し、技術者たちを集めてあらゆるWebサービスを次々に発表していったのが、会社の始まりだったそう。

 それからインターネット黎明期を経て急成長を遂げた会社は、夫の父へ引き継がれた際に組織を再編し、現在の『財前ホールディングス』になった。

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