離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

 今年の春に夫が社長に就任してからも、会社は順調に利益を伸ばし続けている。

 二十九歳の若さにして、巨大企業のトップ。そんなすごい人と結婚できたのは、別に私がシンデレラのように見染められたからではない。

 Zアドバンス社長である父が珀人さんのお父様と懇意にしており、親同士の思惑から政略的に決まった結婚だった。

 その話を父から聞かされたのは大学生の頃。結婚なんてまだ先の話だと思いながらも、内心では嬉しかった。

 実は珀人さんも私も『松苑(しょうえん)学園』という名の私立高校出身。同じ生徒会に一年間所属していた先輩後輩でもあり、私はその頃からずっと彼に恋をしていたのだ。

 結婚して一年が経った今でも、片想いのままだけれど……。

 ふいにこみ上げた切なさをごまかすように、サンドイッチにかぶりつく。ちょうどその時、誰かが隣の椅子を引く音がした。

「財前さん、だよね。隣いい?」

 見上げると、そこに立っていたのは今日から上司になった真木さんだった。パスタとコーヒーがのったトレーを手にしている。

「……は、はい」

 口元を手で隠しながら、こくこくと頷く。懸命にサンドイッチを咀嚼してコーヒーで流し込もうとする私を見て、真木さん申し訳なさそうに甘い垂れ目を細める。

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