離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「さすがは悠花。いい案だ。じゃあ飲み物と……」
「甘いものはどうですか? あそこにチュロスが売ってます」
「いいな。お腹が空いている生徒のために、隣のピザもいくつか調達していこう」
相談を終えた私たちは、それぞれの店に順に並んで、目的の商品を手に入れる。
生徒会の人数は毎年だいたい十名程度。それに自分たちと先生の分も購入したら、ふたりで手分けしても両手いっぱいの荷物になってしまった。
「……これでは手が繋げないな」
珀人さんは少し不服そうにしながら、どうにか荷物を持ち直せないかと思案している。
不特定多数の生徒たちの前ならまだしも、差し入れを持っていく生徒会の面々の前で手を繋ぐのもいかがなものかと思うので、私としては正直ありがたい。
「少しの間ですから、我慢してください。ほら、行きましょう」
「待て。あまり急ぐとピザが傾く……」
両手に提げた袋を注意深く確認しながら歩く珀人さんを見ていると、自然と口元が緩む。
こんな風に母校の学園祭を彼と訪れることになるなんて、少し前までは考えられなかった。今だけは離婚のふた文字は忘れて、素直に楽しみたい。
「生徒会室……ここだな」
校舎の中に入って、エレベーターで四階へ上がった廊下の端。当時と変わらぬ場所にあったその部屋の前で、珀人さんがドアをノックする。
中から「はい」と女性の声がした。
今の声、どこかで聞き覚えのあるような……。