離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「……四季か?」
珀人さんが小さく呟いたその名前に、ハッとする。
そうだ。四季鞠絵さん。生徒会副会長として、いつも会長の珀人さんの隣にいた、美人で頭の回転が速い、才色兼備の高嶺の花。
自分と二学年違うだけなのに、珀人さんも鞠絵さんも、自分よりずいぶん大人っぽいと感じていた。
ふたりが親しそうに話していたりすると、私はいつも胸の奥が痛くなったっけ……。
当時の切ない感情まで思い出しているうちに、珀人さんがドアを開ける。
「失礼します」
堂々と部屋に入っていく珀人さんの後ろから、私は遠慮がちに中の様子を窺った。
現役の生徒会役員たちが、忙しなく仕事をしている。パソコンを睨んでいたり、誰かにスマホで指示を飛ばしていたり、書類を整理したり。
そんな彼らを見守るように立っているのは、当時と変わらぬ印象の女性、四季鞠絵さん。
珀人さんの姿を認めた彼女は、完璧な美しさを湛えた笑顔で中へと歓迎する。後ろにいる私のことはあまり見えていないみたいだ。
「ちょうど、そろそろ来る頃かなって思っていたところだったの」
鞠絵さんは、私たちが来ることを知っていたの? ……珀人さんが話したのかな。
「これ、みんなに」
「まぁ、さすが財前くんね。みんな、元生徒会長が差し入れを持ってきてくれたわよ~」
鞠絵さんのひと声で、それまで忙しそうにしていた生徒たちが目を輝かせながら集まってくる。私も慌てて持っていた袋を机に置いた。