離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

「ご無沙汰しています、鞠絵さん。妻の悠花です。夫がいつもお世話になっています」
「本当にお久しぶり、悠花さん。会社での旦那様のサポートはどうか私に任せてくださいね」
「はい。よろしくお願いします」

 挨拶を終えて鞠絵さんと目を合わせると、彼女は口元こそ微笑んでいたけれど、なんとなく目が笑っていない気がした。珀人さんと話している時のやわらかい表情とはずいぶん違う。

 学年が違う私とは大した思い出話もできないし、邪魔に思っているのだろうか。

 それとも、彼女は珀人さんに特別な感情が……? いや、考えすぎだよね。

 最近真木さんのことを疑いの目で見ているから、思考がそっち方面に偏っているのかもしれない。

 生徒たちに食べ物が行き渡ったところで、私たち夫婦と鞠絵さんも一緒に腹ごしらえをする。懐かしい教室で食べると、少し冷めたピザもチュロスも、特別なおいしさに感じられた。

 あらかた食べ終えてゴミをまとめ終わった頃、鞠絵さんが再び私たち夫婦のもとへ近づいてきた。

「そういえば、財前くんたちはこの後も時間あるの? もしよかったら一緒にオケ部の演奏を聞きに行かない? これからホールで演奏があるそうよ」

 オケ部の演奏と聞いて、少し興味を惹かれる。ただ、鞠絵さんと一緒にとなると、なんとなく気疲れしそうな気配がするので〝ぜひ〟とは言い難い。

 珀人さんの判断に委ねようと、ちらっと彼の顔を見上げた。

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