離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
珀人さんは、本当に変わってくれたのだろうか。
離婚を頑なに拒むのは、世間体や財前一族からの評価を気にしているだけじゃない……?
演奏に耳を傾けながら複雑な思いにとらわれていたその時、珀人さんが「悠花」と私を呼ぶ。
顔を上げるとスッと頬に手が添えられて、キスの予感に気づいた時には、彼の唇が重なっていた。
たちまち心臓が暴れ出し、全身が熱くなる。周囲に誰もいないとはいえ、母校の敷地内でキスを交わすなんて、悪いことをしているみたいだ。
ゆっくりと唇を離した彼は、至近距離で私の瞳を覗いたまま、あやすように頬を撫でる。
「子どものデートはここで終わり」
「えっ?」
「ここからは大人の部だ。……おいで」
囁くような甘い声に、初めて彼と体を重ねたあの夜のことを思い出してしまう。
優しく手を取られ、ベンチから立ち上がる。
校舎の正面側に戻ると学園祭の賑わいはまだ続いていたけれど、珀人さんに胸をかき乱されたままの私に、周囲を眺めている余裕はなかった。